フィリピン空軍基地の格納庫跡地にできた世界最大のレストア工場

Photography:Malcolm McKay

ここはかつてフィリピン空軍基地の格納庫だったところ。いまでは200人以上のレストアラーが、ジャガー、ベントレー、メルセデスなどのリビルドにいそしんでいる。

200人以上の工員を抱え、格納庫のような巨大な場所でジャガーやロールス・ロイス、メルセデスのクラシックカーのボディ修復を専門に行う総合レストア工場なんて、世界のどこを探したってあるはずがないと誰もが思っているだろう。だが驚くなかれ、フィリピンには実在するのだ。それは元米軍基地で現在はクラーク・フリーポート・ゾーンと呼ばれる地区にある。オーストラリアの実業家ジム・ビルネスの構想の元に建てられたビルネス・モーター・トラスト(BMT)がそれだ。



6年前に設立された同トラストはクラシックカーへの投資をメイン事業とするが、必然的にレストア工場も構えた。この地区を選んだのは、熟練した板金職人が豊富にいたのと労働賃金が他の地区より少しばかり安かったからである。つまり、たくさんのレストアを安い価格で提供できる条件が揃っていたのだ。

「自動車製造に関わったのは1976年からです。以来40年、私
の血液にはオイルが混じるようになりましたよ」と、ユーモアを交えてジムは設立の頃の話を始めた。「1978年、私はダットサン240Zを持っていましたが、1年後には1963年型のMGBに乗るようになりました。MGBのコレクターと同じように、エンジンが奏でるサウンドを聞きながら風を肌で感じるのがたまりませんでした。骨董も好きでね、年月かけて人が営んできたものを感じるのが大好きなんです。そうしたものを40年かけて集めたんですが、6年前にすべて売り払いました。売却して得た1億ドルは投資会社を始めるために全額注ぎ込みました。ビルネスの車への投資は為替対策でもある。

「ある国の通貨が下落したら私はそこで車を買います。反対に
ある国の通貨が上昇したらその地で車を売るのです」
クラーク地区の免税制度や低賃金は、イギリスやヨーロッパ、アメリカでレストアする気をなくさせるほどの経済的メリットがあるということが言葉の裏に透けて見える。



「私はそれまで35台のレストア物件を手がけてきました。し
かし場所を確保したあとの2年間に400台の車を買い入れました。腕のいい職人をみつけることも重要でした。ヘッドハンティングで雇い入れた有能な人物には高い地位に就かせたり家を与えたりして、公私両面にわたってサポートしています。もちろん最高レベルの板金職人や塗装職人だけでなく、技術見習いもたくさんいます。だから最初の2年間は試行錯誤でした。生産性もゼロに近かったですね。普通の車を2、3台仕上げただけでしたから。でもそこで学んだことが今に活かされています」

この地で成功を収める鍵は、地元の工員が新しい技術を習得するのにどれだけ熱心であるかということに尽きる。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words & Photography:Malcolm McKay

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