フランスの伝統技術と現代アートの中に光る、日本の伝統工芸|Bel Ouvrage

Tomonari SAKURAI

パリの左岸、6区にあるルクセンブルク庭園。フランス上院の議事堂であるルクセンブルク宮の庭だが、現在では公園として市民に開放されている。この庭園内にはルクセンブルク美術館があり、その裏手にオランジェリーがある。オランジェリーとは、その名の通りオレンジなどの柑橘類を栽培する温室として使われていた場所で、時の王アンリ4世の妃マリー・ド・メディシスの命により、ルクセンブルク宮とともに建てられた。

現在、オランジェリーはイベントホールとして展示会に使用されている。ここで9月3日から9月8日まで、現代の視点で捉えた工芸職「Bel Ouvrage」が開催された。これはグラン・アトリエ・ド・フランス設立30周年を記念した展示で、藁、木材、紙、金属などの素材を巧みに扱う技術と技能で知られる10人のメートル・ダール(工芸の巨匠:人間国宝)を含む、グラン・アトリエ・ド・フランスの17名のメンバーの作品が展示された。

若い世代に手仕事や素材への関心を持ってもらうため、キュレーターのカロル・ド・ボナは、伝統的な技術と革新の精神を結びつけ、フランスの工芸職を脱神話化し、現代に適応させることを目指している。伝統的な職人芸と現代的なアートが融合した作品が会場に集結した。

注目すべきアーティストの一人がファニー・ブーシェだ。彼女は19世紀の写真技法「エリオグラビュール」により、フランスで最年少の人間国宝に指定された。この技法は、写真を銅版に転写し、プレス機で銅版画のようにプリントするものだ。実は彼女は私の写真もプリントしている。ファニーは京都に1年間滞在し、そこでフランス政府が管轄する九条山ヴィラージュに拠点を置いていた。このヴィラは、フランスのアーティストがアトリエとして使い、日本の文化や伝統芸能、美術などを学ぶ施設だ。ファニーがインスピレーションを得たのは、まさに今日の襖絵だった。今回の展示では、樹木の写真を銅版にグラビュールし、その上に金箔を施した作品を発表している。それは、まるで襖や屏風を思い起こさせるもので、彼女が新たな境地にたどり着いたことを感じさせた。

エリオグラビュールで人間国宝に指定されたファニー・ブーシェ。

銅版にフォトグラビュール。それに金箔を貼ったファニー・ブーシェの作品 Fusumas:襖

襖シリーズ。襖のフチに当たる黒い枠は家具のアーティスト、ピノ・アマト、漆の仕上げはミレイユ・エルブストによる。

もう一人の注目アーティストは、アレクサンドル・デュロックだ。彼は万年筆を作るアーティストで、日本の漆塗り技法を多用している。彼の万年筆は形状だけでなく、金箔を使った漆の塗り方も日本の影響を受けている。万年筆をキセルの筒をヒントにした作品もあり、その技術には驚かされる。まるで、日本にそんな技法があるのかと教えられているかのようだ。

万年筆アーティストのアレクサンドル・ドュロック。

禅を万年筆で表現。金箔と漆で表現される。万年筆のニブは24金。

キセル筒をイメージして作られた万年筆。ファニーブーシェのグラビュールの銅版に金メッキをして加工。ケースは家具職人のティエリー・ドレヴェルによる。作品名Contemplation(瞑想)

日本人の私がフランスの伝統文化や歴史を追いかけて作品を作るのと同じように、フランス人のアーティストたちも日本の文化を追求し、作品を作っている。作品を見て感じること、そしてアーティストたちと話すことで大きな刺激を受けた。それは私だけでなく、多くの若いアーティストたちもここを訪れ、何かを心で受け止めている様子が見られた。フランスでは日本のアニメや漫画などの文化が非常に人気だ。フランスの伝統的な技術を継承しつつ、新しい風を吹き込むというテーマで作られた工芸品には、日本の伝統工芸が重なり合い、非常に興味深い展示になっていた。

それぞれのアーティストの作品と解説は画像ギャラリーからご覧いただきたい。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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