このメルセデス・ベンツ600プルマンリムジンは、正規輸入された8台のうちの1台だ。九州の顧客からの日常仕様を可能にしたいとの注文を受けて、エアコンなどにオリジナルの雰囲気を損なわないモダナイズを施しているとの由。壁には様々な年代のグリルが掲げられている。
(株)ヤナセのグループ会社、(株)ヤナセオートシステムズが、 2018年4月に新設した 「ヤナセ・クラシックカー・センター」には、 早くも多くの問い合わせが舞い込んでいるという。『オクタン日本版』がその本拠地を訪ねた。
このメルセデス・ベンツ600プルマンリムジンは、正規輸入された8台のうちの1台だ。九州の顧客からの日常仕様を可能にしたいとの注文を受けて、エアコンなどにオリジナルの雰囲気を損なわないモダナイズを施しているとの由。壁には様々な年代のグリルが掲げられている。
輸入車販売の老舗、ヤナセがクラシックカーのレストア事業を開始するとのニュースに驚かれた方も多いことだろう。 「実は、これまでにもお客様からのご依頼で、レストアをお引き受けしていました。大々的に宣伝することはせず、"口コミ"といえる範囲でしたが...。昨今のクラシックカーの動きから総合的に判断して、ヤナセ・クラシックカー・センターを新設して、私たちの活動を皆さんにもっと知って戴こうと考えたのです」と、その経緯を私たちに明らかにしてくれたのは、ヤナセオートシステムズの梶浦専務だ。
「お客さまの希望を伺って、乗って楽しいクラシックカーに仕上げさせて戴きます」と意気込みを語る、ヤナセオートシステムズの梶浦取締役社長補佐。
1990年代中頃、ヤナセの系列会社でメルセデス・ベンツの輸入元であったウエスタン自動車によって、ヤナセ横浜デポーの敷地内に"オールドタイマーセンター"を開設し、レストア事業をスタートさせたことをご存知の読者もおられることだろう。 この記者も開所間もない時期に取材した経験があり、その徹底ぶりと仕上がりに驚いた記憶がある。その活動は絶えることなく、今般新設された「ヤナセクラシックカー・センター」へと連綿と続いていたのである。
工場自体はそう大きくはないが、板金やリフトなどは同じ敷地内の各施設を使うので、効率よく作業を進めることができるとのこと。
大切に乗られてきたから
1915年の会社創業以来、今年で創業103年になるヤナセは、累計販売台数が200万台を超え、同社の歴史は日本における輸入車の歴史そのものと言っても過言ではない。1915 年にビュイックとキャデラックを手掛けて以降、52年にはメルセデス・ベンツを、翌53年からはフォルクスワーゲンの輸入販売を開始している。
そうした長い歴史を持つ同社らしく、一台の車を長く乗り続けて、整備はヤナセに入れると決めているユーザーもめずらしくはない。また、かつて憧れたモデル(メルセデスが多いようだ)を探し出し、入念に整備あるいは新車同様に仕上げたいと考えるユーザーもおられ、そうした方々からの相談も少なくないという。
W113モデルのSLの人気は高いという。ちょうど 280SLのエンジン調整が行われていた。ボッシュ製機械式燃料噴射装置のOHは、日本国内でも可能になっているという。
往年の最高峰サルーンであった300SEL(W112)がエアサスペンションのベローズ整備を受けていた。あまりにめずらしいので問うたところ、 故吉田茂氏の愛用車であった。
「お客様から、愛着を持って普段に使っておられる車のメンテナンスやレストアのご依頼を戴いて、かつて輸入あるいは 販売した会社が、車が古いからといってお断りすることなどできません」と梶浦氏は語る。同社のHPには、「往年の名車をYANASE Qualityで蘇らせます。ヤナセ・クラシックカー・ センターは、長年、輸入車に関わってきたヤナセに課せられた使命です」と綴られているが、この言葉にヤナセのレストアに関する姿勢が込められている。
最近は、30年以上前に製造された「オールドタイマー」だけでなく、生産から20〜30年を経た、いわゆる「ヤングタイマー」も増えてきているという。メルセデス・ベンツを例に挙げれば、W124、W201(190E)や、それ以前のW116、 W107、W123などもまだまだ稼働しているし、クラシックモデルとして価値がでてきていることから、整備のためにヤナセの各支店に持ち込まれることは少なくないという。
この施設見学に対応してくれたのは、心強いヤナセオートシステムズ のスタッフの方々。向かって左から、サービス部の片岡部長、長谷川マネージャー、西田取締役。片岡氏はATや デフなどのユニットが担当だ。長谷川氏が受け入れ窓口を担当し、全国を飛び回ることが多いという。
だが、通常のメンテナンスなら問題がないが、短期間では完成できない大規模な修理やレストアには、じっくりと取り組むことのできる専門の施設とノウハウが必要になり、それが今回のクラシックカーセンターの開所に繫がった。
そうした作業には熟達したメカニックの存在が欠かせない。 ヤナセで長く整備に関わってきたベテランメカニックが持つ高い技術を若い人たちに伝承し、後継者を育てていくことでも、クラシックカーセンターは重要な核になるという。部品供給についても同様で、長年にわたる輸入車ビジネスで構築されていた、世界に広がるネットワークが大いに頼りになるとのことだ。
さらに、特殊工具はもちろん、技術文献や、カタログなどの資料がグループ内に保管されていることが大きな強みになっていることは、言うまでもないだろう。その車が新車だった頃に実際に担当していたスタッフがレストアに当たるというのは、クラシックカー整備にとっては理想的な姿だろう。
オフィスに置かれたカタログや写真アルバムなど。これはほんの一部だ。
ヤナセ・クラシックカー・センターの設立に当たっては、 ドイツのテュフ・ラインランド・ジャパン㈱より、クラシックカーガレージ認証を取得している。この認証は、その工場に対し、修理・整備の技術、品質、機器・設備、運営・管理、法令遵守、顧客対応など、基準に基づいた150項目以上の監査を実施し、合格すると認証が得られるというものだ。板金を担当するヤナセ・ボディショップは、すでにテュフのボディショップ認証の最高レベルのプラチナ工場として認証済みであり、クラシックカーについても同じ敷地内にある板金塗装工場が担当する。
オフィスに掲げられたTÜV Rheinlandのクラシックカー・ガレージ認定書。
ヤナセ・クラシックカー・センターの設立が報じられてから、 同社には多数の問い合わせが入っているといい、工場内ではすでに数台が作業中であった。ヤナセが扱ってきた車だけに限らず、どのメーカーのモデルも対応し、顧客と担当者がじっくりと話し合い、作業に入るという。すでにVWシロッコが入庫し、ランボルギーニ・ミウラについての打診もあるという。また、将来的には、販売を手掛けるようになるだろうとのことだ。
「すぐには大きなビジネスになるとは思えませんが、たくさんのお問い合わせを戴き、手応えを感じています」そう語るスタッフの方々の表情から自信のほどが窺い知れた。
ユニット整備担当のフロアには、現代のモデルを含めて様々な形式のATが並ぶ。
ユニット部門に置かれたシールやベアリングを収めた引き出し。
OHを終えたAT単体が置かれていたが、それは現在入庫している280SLのものだった。
完成したATの完成確認テストを行う試験室。このように長く使い続けている装置は、クラシックカーを整備する際には大活躍する財産だ。この記者が25年前に訪問したときと同じ光景だ。
エンジン作業スペースに置かれていた6気筒ヘッドは、280SLのものだった。変形などで交換の必要が生じても、新品が供給されるという。
横浜デポー内の倉庫でレストアの順番を待つクラシックモデル。奧の青い600は故梁瀬次郎氏が愛用していたもの。
文:伊東和彦(Mobi-curators Labo.)Words:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.)
写真:小河原認 Photography:Mitomu KOGAHARA
ヤナセ・クラシックカー・センター
住所:〒224-0044 神奈川県横浜市都筑区川向町1117
TEL:045-474-7856
FAX:045-471-1512
営業時間: 9:30-18:00
定休日:日・月曜日、祝日、夏季、年末年始
E-mail:yanase-classic@yanase.co.jp
http://yanase-classic.com
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