アストンマーティンDB11 ヴォランテ

麗しのオープン・スポーツカー、アストンマーティンDB11 ヴォランテ。ルーフを開閉することで2つの顔を見せるこの車は、他のアストンマーティンモデルとは違った空気を醸し出す。

アストンマーティンは旧いモデルも新しいモデルも例外なく、どれを走らせてもたっぷりと気持ちいい。
端から闘うことを運命づけられたレーシングカーや自らが持つ技術を世界に問うかのようなハイパーカーとは異なり、スポーツカーは他者と競うためじゃなくドライバーが自分自身と対峙するために駆る乗り物だということを、車作りに携わる人達が深いところで理解しているからに違いない。

DB11ヴォランテのステアリングに手を添えて、季節を濃くする街から山へと走らせながら、僕はそうした実感に身を委ねていた。

1ヶ月前とは明らかに表情の異なる空気が、頭の上をさわさわと滑り抜けていく。影の中に入り込むと少しピリッとして、陽の下に出ていくと僅かに柔らかい。森の中を縫っていくような道に差し掛かったときには、冬の装いへと急いでいる木々の息吹きを感じ取れそうな気すらしてきたほどだ。

春先や初秋のように手放しで心地好いといえるのとは違うけど、これもこの季節のごく限られた期間、しかも一瞬にすら感じられるほど短い時間だけが与えてくれる、特別な感触。大自然が与えてくれる、大いなるギフトなのだ。

それを全身で浴びるようにして享受できるのは喩えようもなく幸福な、特別なことなのだと思う。


もちろんそれは、トップを開け放つことのできる車だからこそ得られるもの。つまりオープンカーであれば、等しく堪能することのできる豊潤なる世界、ではある。

けれど、他のオープンカーと決定的に異なるものが、このDB11ヴォランテにはあるのだ。ソフトトップの存在が車のシルエットを台無しにするようなことがなく、開けても閉じてもそのスタイリングから違和感らしきものは僅かばかりも感じられず、いついかなるときも麗しいのである。その中に自分が収まっているのだという事実が、心をくすぐってくる。

御存知のとおりDB11ヴォランテは、2016年の発表時に世界中のスポーツカー・ファンの溜息を誘ったDB11を基にしている。

そもそもDB11は、そのクーペからして抜群に綺麗でエレガントなのだ。アストンマーティンの副社長であり造形部門のトップでもあるマレック・ライヒマン自らがデザインしたそのスタイリングは、ありとあらゆる部分に特有の黄金比が散りばめられていて、どの角度から見ても何かが余ったり足りなかったりするような破綻が微塵もない。

だから視る者の感性にすんなり美しいカタチとして伝わってくるのだ。


そしてクーペのその肢体を初めて見たとき、ヴォランテの姿を脳裏に浮かべた人もいたことだろう。ここから切れば抜群に美しいオープンカーができあがるというキリトリ線のようなものが、そこはかとなく見てとれたからだ。

英国流に表現するならまさしくドロップヘッド・クーペだが、それを並立させることを最初から念頭に置いて、おそらくライヒマンはデザインしたのだろう。かくしてトップを開ければ瞬時に華やかさが立ちのぼり、閉じればふわりとエレガンスを漂わせる、どちらの姿も素晴らしく麗しい希有なオープン・スポーツカーが誕生した、というわけだ。
トップは耐久性と耐候性を重視した8 層の凝った作りとされていて、だから閉じてるときはソフトトップであることを忘れてしまうほど、車室内は静かだ。

開閉はスイッチひとつで、開けるのに14 秒、閉じるのに16 秒。開け放ったときにはエクステリア・デザインの一部として否応なしに機能することになるインテリアは、アストンの主柱というべきDB11 ならではのラグジュアリーなものだ。ステッチの刻まれた上質なレザーの配色や、木目もしくはカーボンといった異素材との組み合わせで、下界の猥雑さからは切り離してくれる風雅な空間。

またクーペにはない特別なあつらえとして、フロントシートの背面に温もりのあるウッドや逆にシャープなカーボンといった内装に連動したパネルが貼られるなど、細かなところにまで神経の行き届いた意匠も与えられている。
車全体がスマートで仰々しさや威圧感のようなものがないから不自然なほどに意識させられることもないけれど、そんなところからもオープン・スポーツカーとしての車格の高さが漂ってくる。


観て会心、触れて充足。DB11ヴォランテは走り出す前の段階から、たっぷりと気持ちいいのである。だからというわけでもないのだけど、ヴォランテを走らせているとき、実はスピードを浴びたいという欲求が強く湧いてくることはそれほど多くなかったりする。

いや、ここだけは誤解していただきたくないのだけど、何もそれはDB11 ヴォランテの持つ走りのパフォーマンスを軽んじているということではない。510psと675Nmを発するメルセデスAMG 由来の4リッターV8ツイン・ターボは、その気になって右足に力を込めると、呼吸を飲み込んでしまいそうになるほどの強烈な加速を当たり前のように繰り出してくる。

あっという間もなく混沌とした絶対スピードの領域だ。ものすごく攻撃的な一面を、クーペに違わず持っているのだ。車体の上半身に大きな開口部が穿たれて、クーペよりも100kgほど重量を増しているというのに、緩さや重さといったネガティヴを感じさせることは全くなく、コーナーでは絶妙な手応えをドライバーに伝えながら、滑らかに軽やかに鋭く素早く素直にノーズをイン側に向け、鮮烈といえるほどの速さで次の標的に向かって駆け抜けていく。

抜群のハンドリングもコーナリング・パフォーマンスも、クーペとほとんど変わりがない。どういうことかというと、ただクーペのルーフを切り取って補強しただけでなく、DB11 V8 が持っているDB11 V12を凌ぐ運動性能や独自のテイストをドライバーがちゃんと味わえるよう、ボディもシャシーもしっかりと開発が進められてきた、というわけなのだ。


でも、解っているけど踏み込まない。なぜなら、天から降ってくる角の丸まったアストン風味に調律されているサウンドを聴きながら、風や光や匂いが連れてきてくれる情緒深さのようなものを全身で感じながらのドライブは、ゆるやかに走っているだけでも充分に心地好いから。ものすごく豊かな気分なのだ。

パワー・ウォーズの申し子のような異形のスーパー・スポーツカーで刹那の快に溺れるのもいい。
効率を突き詰めた怜悧にして正確なマシンでスピードを追い求めるのもいい。そうした"気持ちよさ"がこの世に存在することは知っているけれど、僕はこうしたアコースティックなスポーツカーで、ときにペースを上げて風を浴び、ときに緩めて陽光や薫りを感じながら日々を暮らしたい。そうした身の上にいずれなりたい、と心から切望している。


アストンマーティンDB11 ヴォランテ
ボディサイズ:4750×1950×1300mm
ホイールベース:2805mm
車重:1870kg
駆動方式:FR
変速機:8段AT
エンジン型式:V型8気筒 ツインターボエンジン
排気量:3982cc
最高出力:510ps(375kW)/6000rpm
最大トルク:675Nm(68.8kgm)/2000-5000rpm
本体価格:2423万2276円


文:嶋田智之 写真:尾形和美 Words:Tomoyuki SHIMADA Photography:Kazumi OGATA



アストンマーティンオリジナルの残価設定型ローン「アドバンテージローン」の詳細についてはこちらより。

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