レプリカを超えたレプリカと呼ばれたポルシェを作った男

Photography: Charlie Magee



本物を採寸

前述したように、すでにレプリカ・キットは存在していたから、ポール・フォアマンがなぜ既存のレプリカをそのまま組み立てるか、あるいは改良を加えるといった手段を選ぶのではなく、白紙からスクラッチで自分の車を製作したかについてもう少し理解する必要がある。

「 すべてのスタートは2006年のル・マン・クラシックだった。そこでUKナンバーを付けたオリジナルカーが参加しているのを見て、オーナーを探し、彼に車を3Dスキャニングしたいと頼み込んだ。そのデータを取っておけば、もし万一車を壊すことがあっても正確に元に戻すことができるから彼の役にも立つと持ち掛けた。彼は喜んで申し出を受け入れてくれた。実は彼自身もレプリカを所有しており、それについてお高くとまっているわけではなかったんだ」

スキャニング作業は、その年の10月にセントラル・スキャニング社で行われたが、当時はまだその技術は発展途上であり、フォアマン自ら行わなければならないことも多かった。その後フォアマンはオリジナルRSKが出場しているレースのパドックの常連となり、正確な車を作るためにさらなる計測や写真撮影を行ったという。
「一年ほどグッドウッドに通った。テーラーが使うメジャーを買って、ダッシュボードの下端からフロアまでの寸法などを測った。私もそんな詳細な数値は持っていなかったからだ。人々は皆『「なぜダッシュの下側から写真を撮っているんだ?』と、訝しい目で見ていたが、まさに私は普段見られない角度から、誰も撮ったことがない写真を撮りたかったんだ。工場でどのように組み立てられたか正確に知るためにね」

3Dスキャニングの後、そのデータはフルサイズにプリントアウトされ、MDFボード(木質系の成型板)の上に広げて0.1mm単位の精密さで正しい形に、ちょうどジグソーパズルのようにしてカットされた。続いてパネルを組み立てて木製の型を作成し、それを基にアルミボディパネルを製作した。ほとんどの部分は1.5mmの厚さだが、たとえばノーズのような箇所はもう少し頑丈にするために若干の重量増を承知で補強を加えたという。およそ2年間をかけて、ボディはオリジナル同様、溶接とリベットを使って入念に製作され、その後フォアマンはシャシー製作に取り掛かった。

最初に彼は冶具の製作に取り組み、続いてチューブラーフレームを作り始めた。「オリジナルモデルから採ったすべての寸法を元にして自製シャシーを製作した。それはシームレス鋼管のシャシーで、10ゲージ(およそ3mm厚でオリジナルの倍だが、それでも私が持ち上げて歩くことができた)のチューブで作られている。できるだけ正確に見えるように配慮したから、内側から見ればオリジナルとまったく同一だ。しかし、4カムエンジンとギアボックスを使う予定はなかったので、そのマウントは異なる」

ピーキーなことで有名だった4カムエンジン(パワーバンドは3000から3500rpmの間から)の代わりに、フォアマンはもっと実用的で手に入れやすい914用エンジンとギアボックスを選んだ。空冷水平対向のポルシェエンジンにはデロルトDRLA40キャブを装着したが、テストの後に排気量は2.1ℓに拡大され、さらにハイカムとドライサンプシステムを加えたエンジンは130bhpを生み出すという。サスペンションはちょっと複雑だった。というのも、オリジナル部品のいくつかは手に入らなかったため、フォアマンは応急部品で間に合わせるのではなく、まったく異なる手法を選択した。「リアのアップライトとウィッシュボーンは自作しなければならなかった。フロントサスペンションは白紙から設計した。オリジナルはトーションバーを採用していたが、私はフロントがウィッシュボーンに改造されたオリジナルモデルの写真を持っていたので、それを取り入れることにした。前後ウィッシュボーンにコイルスプリング/ダンパー同軸ユニットを備えたサスペンションを製作した」それに加えて前後にスタビライザーも備わっている。

ウォーム&ギアのステアリングはロック・トゥ・ロックが2.4回転のラック・ピニオンに変更、ブレーキは四輪ともディスクだが、外側からはドラムブレーキに見えるようなカバーが装着されている。燃料を満たした状態での重量はわずか640kgに過ぎない。それでも、分厚いシャシーと重いエンジンが影響し(非常に軽いフロントサスペンションを持つにもかかわらず)、オリジナルモデルよりは重いという。

だが製作者は満足している。「どのぐらいの時間がかかったかを考えるのは好きじゃないんだ。実際、この種の車をゼロから作り上げようとする場合、合わせてみないと分からないことが沢山あって、それにはとにかく時間がかかるものだ。実際の作業と同じぐらい考えることに時間を費やさなければならない。しかもフロントサスペンションのように、一度組み立て初めてから変更したものも多かった。最初のジオメトリーでは満足できなかったので初めからやり直したんだ」

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: James Elliott

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