レプリカを超えたレプリカと呼ばれたポルシェを作った男

Photography: Charlie Magee



一般道でも快適だが、雨に注意

そんな改造についての話を聞いた後でも、雨に濡れたグッドウッド・サーキットに佇む車のドライバーズシートに身を沈めた私の眼には、本物のRSK以外には見えなかった。見た限りでは、まさしく信じられないほどの出来栄えだ。ほとんどのパーツは当然ながら356のものだが、いくつかそうでないものを見つけることができる。たとえばドア・キャッチなどは巧妙に手作りされたものだ。

エンジンを始動すると、ステンレススチール製のストレートエグゾーストからけたたましく音と振動が飛び出して来た。排気管は4本が1本にまとめられた見事なシングルパイプである。クラッチは軽く、わずか1500~2000rpmぐらいから十分なパワーを生み出すいっぽう、回せば7000rpmまで叫ぶように吹け上がる。トランスミッションは後期型914のもので、リンケージが少なくよりダイレクトな手応えを持つ。VDMのレプリカ・ステアリングホイールからの反応は過剰なほどで、強力なトルクのおかげできわめてエキサイティングであるばかりか、非常に走りやすい。

雨には何の備えもないうえにスクリーンも小さく、ずぶ濡れになってしまったのはいささか閉口したが、雨はこの車のもうひとつの面を露わにしてくれた。つまりドライならばハンドリングは申し分ないものの、だがウェットコンディションではひとえにそのパワーウェイトレシオのせいで、十分な注意が必要だ。決して乱暴に扱ってはいけない。頑丈そうなラジアルタイヤを履いているとはいえ、きわめて容易にグリップを失うからである。しかし、それは例外と言っていいだろう。普通の天候の下では、この車の扱いづらい点は排気管からの不協和音だけである。

ソフトなスプリングを備えているおかげで(フロントは250ポンド、リアは275ポンドという)、一般道でも掛け値なしに乗り心地は快適である。ダンパーは調整式なので、サーキット走行用に硬くすることもできるが、そうすると一般道での挙動に影響が出る。しかしながら、フォアマンが設計したサスペンションのおかげで、乗り心地とハンドリングの設定を変えるのは容易な仕事だろう。

試乗を終えても耳鳴りが残っている私に、フォアマンは売却する前にはシェイクダウンとして400マイルほどしか走っていないと打ち明けた。実際、彼はこのプロジェクトの結末がこうなることを早い段階で知っていたのである。
「この計画のために両親から資金を借りており、それを返さなければならなかった。そのためには車を売るしかなかったんだ。しかし、いずれにしても私は作ってみたかった。それは抑えきれない情熱のようなものだった。そして沢山の人々がこの車の出来栄えを見て、私の仕事を認めてくれたことを大変誇りに思っている」

もっとも、それでこの物語がお終いになるわけではない。「オリジナルモデルのオーナーには1台しか作らないと伝えていたのだが、やはりどうしても自分のためにもう1台作って、取っておきたくなってしまった。そう打ち明けると彼は今度も認めてくれた。二度目だから今度はもっと早く、簡単に、そして安くできるはずだ。ほとんどこの車と同じものになる予定だが、ボディはポルシェ・ロイヤルブルーに塗るつもりだ。すでにエンジン(若干大きなユニット)とドライブトレーン、シャシーと計器類は用意してあるので、あとはボディを製作して組み立てるだけだ。多分、一年ほどで完成すると考えている…」

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: James Elliott

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