これは残骸ではない。博物館に展示された"見るも無残なクルマ"の正体とは

このクルマの正体とは

ここに掲載したような"残骸"が自動車専門誌の誌面に登場することは希だ。だからといって、あまりに醜いからと目を背けないでいただきたい。"残骸"どころか、今や世界一の自動車製造会社となったトヨタ自動車の人々にとっては、自社のルーツを明らかにする重要な"生き証人"なのである。地球の果てまで旅しても探し求める価値を持つ1台といっても、決して過言ではないだろう。本稿は地球上に1台かもしれないクルマを発見した人々のストーリーである。

ロシアからの便り

第一報は2008年春のミッレミリアの開催中に、ローマン自動車博物館(オランダ・ハーグ)の館長、ロナルド・コーイマンズに届いた。
「古いトヨタ車についての情報を持っている。おそらく貴方は興味を持つだろうが、売り手の提示額はあまりに巨額だ……」と。
情報をもたらしたのは、同じオランダのあるクラシックカー・ウェブサイトの運営者であった。話を聞いてみると、その"古いクルマ"とは、トヨタ初の生産モデルとして知られるAA型である可能性が濃厚であった。

AA型は1937年から1404台が生産されたが、これまで1台も現存していないと信じられていたのである。トヨタ自動車ですら、日本中を探し求めた結果、1台も残っていないとの判断を下し、巨額の費用を投じて忠実な複製を製作したほどであった。

もし、この情報が真実であるのなら、行動あるのみだ。なぜならローマン自動車博物館のオーナーであり、世界有数のクラシックカー・コレクターであるエヴァート・ローマンは、欧州でも有数のトヨタ車ディーラーの経営者であり、彼の素晴らしいコレクションはビジネス成功の証であった。さらにローマンはトヨタ博物館の重要な協力者でもある。それが"幻のAA型"であるというなら、躊躇している時ではない。

しかしながら、ロシア人とのビジネスには多くの困難が予想された。まず、その情報は正しいものだろうか。ロシア側から提供された写真をトヨタ自動車が所蔵する歴史資料と比較して、慎重に検証を重ねた。

「ダッシュボードやドアパネルも、なによりティアドロップ型のクォーターウィンドーやスカットルの形状から判断して、本物のAA型と確信しました。ロシアの"イヴァン"にeメールと電話で連絡を取ったのですが、彼との英語での意思疎通には苦労させられました。彼が追加として送ってくれた写真を確認したうえで、慎重に交渉を開始しました。私は身分を隠さず、ローマン博物館の館長として、正攻法で話を進めることにしました」と、館長のコーイマンズは回想している。


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さながらスパイ映画のように

「交渉がほぼまとまった時点で、クルマを確認してほしいとモスクワに招待されました。もちろん異存はありませんから、必要な手配を始めました。渡欧に必要なロシアからの正式な招待状が届き、ビザを取得し、待ち合せ場所も決めたところ、2日後に新しいメッセージを受け取りました。なんと『AA型はモスクワにはない』と」

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:数賀山まり Translation: Mari SUGAYAMA Words: Martin van der zeeuw Translation: Gehene Tewfik Photography: David Jong

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