これは残骸ではない。博物館に展示された"見るも無残なクルマ"の正体とは

このクルマの正体とは



プロローグ

半年後、AA型はウラジオストックからの長旅の末、無事にオランダに到着した。半年とは驚きだが、この経緯についてコーイマンズ館長は以下のように説明してくれた。

「時間がかかったのは、クルマが文化遺産ではないことをロシアの文化省が確認し、許可を得る必要があったためです。もし、文化遺産であると判断されれば、国外への持ち出しは許されないのです。幸運にも、トヨダAA型は"シェボー"の名で登録されていましたし、あまりに無残な状態であったことも私たちに有利に働きました。そのほかには、ボリスとイギリス人の知人たちが、"正しい意思決定を促した"とでもしておきましょうか」

コンテナが開けられたときに新しいオーナーとなったエヴァート・ローマンが見せた満面の笑みが、この作戦に関わったすべてのスタッフの労をねぎらった。

ローマン自動車博物館は、ハーグに建設中の新しい博物館のオープニングに合わせてクルマを公開することにした。もちろん、この吉報を聞いて駆けつけたトヨタ自動車関係者に見てもらったことは言うまでもない。感動の対面を果たした中には、AA型の開発において陣頭指揮を執った豊田喜一郎氏の孫である、豊田章男現社長の姿もあったという。

「ローマン自動車博物館での9年間を振り返ってみると、世界各地を訪れ、いろいろな体験をしましたが、AA型入手のミッションが最も不思議な体験でした。私は結構ロマンチストだと思っていますが、今回の体験ほどは神経を使うものはなかったですね」と、コーイマンズは目を細めた。

オランダ・ハーグのローマン自動車博物館には、歴史的なトヨダAA型がロシアから届いたままの状態で展示されている。人によっては"見るも無残なボロボロの状態"と受け取れるかもしれないが、こうして置かれているだけで、観る人を惹きこむ強烈なオーラを発している。


トヨダAA型を観察する
ボディは傷やへこみで損傷が激しく、塗装はすべて剥がれ落ちている。ドアは曲がっており、雑な修理の痕跡が伺える。内装も欠落し、窓は割れているかなくなっている。グリルもオリジナルではなくなっているし、タイヤも他車から流用品だ。インテリアも無残な状態で、内装は破れ、計器パネルの文字はロシア語で書かれ、針は失われている。ケーブルに限らず、ワイヤがあらゆる箇所から垂れ下がっている。
ロシア語の表記には、AAが後期を送った場所は反映されていない。20年前のソ連時代を知る人は理解できるだろうが、ヴォルガやラーダ、モスコヴィッチなど、ソ連の当時にも新車存在したが、注文してから入手できるまで10年待ちは普通だった。だから、クルマを所有している人は、あらゆる延命策を駆使して乗り続けたのであった。もし、これが豊かな西側諸国であったなら、AA型が生き延びていることはなかったはずだ。


トヨダAAは単独でローマン自動車博物館で展示されているのかがわかる。ひどく衰えた状態だが、修復することは明らかに罪となるだろう www.louwmanmuseum.nl


現時点では、シャシーナンバーが発見されていないので、製造年は判明していない。すべてのAAは右ハンドル仕様だったが、このクルマは左ハンドルに改造されている。ステアリングホイールはオリジナルで、中央にスロットル、右側にブレーキペダルという配置も変更されていない。ボディはオリジナルだが、このクルマにはビルトイントランクが設けられている この時、ハンズとボリスは初めてクルマを目にし、『これのために?』とショックを受けていました。


ラジエターグリルとその周囲のパネル、ヘッドランプやバンパー、フロントフェンダーとランニングボードもオリジナルではない


エンジンはおそらくロシア製の6気筒サイドバルブ・ユニットに換装されており、同様にタイヤともロシアのトラック用(?)を履いている

貴重な写真11枚を見る

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:数賀山まり Translation: Mari SUGAYAMA Words: Martin van der zeeuw Translation: Gehene Tewfik Photography: David Jong

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