フェラーリ・デイトナを駆って古き良き時代のプレイボーイを気取ってみる

Photography: Paul Harmer



V12エンジンは一瞬で始動する。かなり複雑な吸気系を持つにもかかわらず、一度大きく吠えた後は安定したアイドリングを始める。まずはゆっくり走り出すと、溢れ出すそのパワーの滑らかさに感銘を受けないわけにはいかない。重いがクラッチも実に扱いやすい。ただ儀礼として冷えている時のギアチェンジには神経を遣う。真っ直ぐではない1速から2速へのシフトはゆっくりと行ったが、すぐに慣れた。これまでの経験から言っても、フランスに渡って最初の100マイルほどはつまらないのでさっさと通り過ぎたほうがいい。代わり映えのしない幹線道路では、最高速度175mphのデイトナは檻の中のヒョウのようだ。地元の古いディーゼル・ハッチバックにも時速45マイルでおとなしくついて、オートルートへと向かう。このイタリア車のギア比は高く、時速25マイルでもゆっくり走れる5速は、3000rpm弱では80mphに達する。乗り心地は素晴らしく、ダンピングも驚くほど良好だ。現代のスポーツカーに慣れた人には、70プロファイルのタイヤを履いたフェラーリの柔軟性は新しい発見だかもしれない。デビュー当時、硬すぎると批判されたのはなぜだったのだろうか。一瞬ラジオをつけようかと考え、マシューに使えるかと聞くと「知らない」という。不審そうに私を見ながら「試したことがない」と言う。なるほど。

またステアリングにパワーアシストが備わっているとは誰も気づかないだろう。マシューによれば120mphを超えると軽く感じ始めるという。法定速度程度でクルーズしている限り、期待以上の正確さで路面の感触を伝えてくれる。間もなく、古い城壁に囲まれたラン(Laon)の街近くまで来ているのに気づく。ランの大聖堂が地平線に見え、起伏のある平野にそびえ立っている。街まで伸びている道も見える。これこそデイトナに相応しい国だ。天気が良くなり、雲が切れて夏の太陽がわずかに顔を覗かせた。マシューがエアコンを入れながら「ガラスが大きいため暑い時にはあまり役に立たないんだ」と言う。私にはどうということはない。パワーウィンドウはきちんと動くし、窓を開ければ最高のV12の音楽を楽しむこともできるではないか。

その音に気を良くしてどんどん進む。もうデイトナとの挨拶はきちんと済んだと考えたので、もう少しスピードを上げることにする。3速の30mph辺りからスロットルを半分踏むと、パワーは直線的に湧き出し、滑らかに加速する。4速にシフトしてさらにスロットルを少しずつ開けていくと、エンジン音が深くなり、切迫感が増してくる。スロットルレスポンスと実際の加速がこれほどうまく同調している車は他に思い出せないぐらいだ。

緩やかにコーナーが続く道では、絶えず他の車につかえてしまうが追い抜くのは簡単だ。70~90mph加速タイムは3速で3秒、4速では4秒、さらに5速でもわずか5.5秒に過ぎない。現実の世界では、3速で床まで踏むとあまりにも早く3桁(mph)の速度に達してしまう。4速でも十分に早いが、どのギアを選んでも楽に追い抜くことができるので、必死にやっているようにはまったく見えない。まさにプレイボーイの車はそうであるべきなのだ。

ランでは、 126ℓ(27.7ガロン)を注いで大きなタンクを満たした。楽々と長距離をカバーできるのはまったく素晴らしい。デビュー当時、デイトナの設計思想は一般的なマーケットのはるか先を行っていたために、デイトナの能力を理解できたのは一握りの裕福な人たちだけだった。



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編集翻訳:高平 高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Keith Adams

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