フェラーリ・デイトナを駆って古き良き時代のプレイボーイを気取ってみる

Photography: Paul Harmer



そろそろ、ランス(Reims)の街が見えるところまで来ている。我々は1972年のトゥール・ド・フランス・オートの一部だったランスの古いコースを訪れるつもりだ。デイトナは1968年に発表されたが、レースで結果を残したのは1972年になってからだった。402bhpのエンジンと11インチのワイドホイール、そしてさまざまな空力対策がホモロゲートされたのだ。ルマン24時間レースでクラスのトップ5を独占したデイトナは、当然ながらその後に開催されたトゥール・ド・フランスでも優勝候補と期待されていた。

それはサーキットレースとヒルクライム、ラリーのスペシャルステージに長距離のロードセクションを組み合わせた、実にユニークでチャレンジングな8日間のイベントだった。ジャン=クロード・アンドリュエとヴィック・エルフォードが運転する2台のデイトナが優勝を争い、2人はスペシャルステージとヒルクライムで最速タイムを出し合い、いくつかのレースで1-2フィニッシュを果たした。しかし、エルフォードはバロン・ダルザスのスペシャルステージでコースアウトしてリタイア、結局アンドリュエが優勝した。

ランスのホームストレートに到着すると、150mph以上で接戦を繰り広げるデイトナのV12の音が聞こえるような気がした。太陽がギュー(Gueux)とランスを結ぶD27に並んだピットとグランドスタンドに沈んでいく。かつての栄光の場所でデイトナを走らせたいという誘惑には逆らえず、窓を下ろして空っぽのスタンドに反響する音を楽しみながらアクセルを踏んだ。暗闇に追い立てられるようにストレートを加速する。現代式のロードテストでは、0-60mph加速は5.5秒、0-100mphは12.5秒だったという。実際、私たちもそれとあまり違わない速さで走っていると思う。

翌朝は暗い曇り空が広がっていた。まるでイギリスのような天候だが、実際にはル・トゥケ(LeTouquet)のウェストミンスター・ホテルからまだ少し離れたところにいる。そこは「海辺のパリ」と呼ばれる豪華なホテルであり、かつてはノエル・カワードや社交界の名士で賑わったところだ。考えた結果、そこまではオートルートを使わないことにした。急いで直行するのはもったいない気がするからだ。

ツイスティな道を走ることで、さらにその車について分かることがある。デイトナは高速コーナーのターンインでほんのわずかにアンダーステアが出るが、正確なスロットル操作をすることでなだめることができるし、もう少し踏み込むとニュートラル、もっとやればオーバーステアに変化する。いずれにしてもデイトナでのコーナリングは楽しい。現代の車ではこれほど繊細で濃密な感触は得られないだろう。

この旅ではデイトナの実力を感じることができたし、あらためて真に偉大な車だということを確認できた。確かに技術的にはランボルギーニ・ミウラに後れを取っていたのかもしれないが、デイトナは当時も今も、より速く、しかも扱いやすい。また、デイトナはランボルギーニのようなドラマ性と美しさも持ち合わせていないかもしれない。だがはるかに実用的で〝役に立つ.車である。そして忘れてはいけない大切なことがある。それはデイトナが5年間の製造期間中、常に最速であり続けたいうことだ。この週末、何度も危険な言葉が口をついて出た。「この車とならば、一緒に生きていけるかもしれない」。

こうして私たちはル・トゥケに着き、デイトナの広いトランクに積んだ荷物をウェストミンスターのコンシェルジュに任せた。エンツォの意図通りに車を使えば、1972年のプレイボーイは何の問題もなかったはずだ。あの当時、1000マイルを走り切って後に、ドライバーを颯爽と玄関に立たせることができる車は他にはなかった。デイトナを駆るミスター・プレイボーイは幸せ者だったのである。


1973 フェラーリ365GTB/4 デイトナ
エンジン:4390cc V12、DOHC、デュアル・イグニッション、ウェバー40キャブレター×6基 最高出力:352bhp/7500rpm
最大トルク:318lb-ft/5500rpm トランスミッション:5段マニュアル、トランスアクスル、後輪駆動
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、スタビライザー
ブレーキ:4輪ディスク、サーボアシスト付き 車重:1585kg 最高速度:175mph 0-60mph加速:5.5秒



カーフェリーで海峡を渡るのもグランドツーリングの一部だ。歴史的なランスギュー・サーキット(というよりその廃墟)はロマンチックな旅の目的地として最適だ

カーフェリーで海峡を渡るのもグランドツーリングの一部だ。歴史的なランスギュー・サーキット(というよりその廃墟)はロマンチックな旅の目的地として最適だ


ダッシュボードと革巻き3本スポークのステアリングホイールは、まるで工芸品のようだ。大きな速度計とタコメーターの間には補助メーターが並んでいる




最高速175mphのデイトナはまるで檻の中の豹のようだ私たちは"プレイボーイの振る舞い"を保った


V12の轟くサウンドは素晴らしいが、眺めてもまた素晴らしい



フランス北部の最も美しい風景。シャンパーニュへ向かう途中に中世の街やシャトーが点在する。交通量が少ないのも嬉しい特色、まさしくデイトナの"領土"である


ウェストミンスター・ホテル。ミスター・プレイボーイの生息地。長距離高速ドライブの後の宵をカジノで過ごす場所。ル・トゥケは文字通りの「海辺のパリ」だ

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編集翻訳:高平 高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Keith Adams

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