アルファロメオ・ジュリアGTA|"Alleggerita"の魅力

アルファロメオ・ジュリアGTA



シャシーナンバー:752520

リチャード・ノリスが所有するGTAストラダーレ、シャシーナンバー:752520には興味深い歴史が刻まれている。レース未経験でほぼオリジナル、リチャードが6人目のオーナーだ。1966年の初代オーナーはロスチャイルド一族のひとりであったが、驚いたことに、GTAに"ラドフォード・コンバージョン"を施していた。英国車通の方ならご存じの通り、ハロルド・ラドフォードは高級な内装仕上げを得意とするコーチビルダーで、1960年代には、アストンDB5シューティングブレークの製作や、BMCミニにロールス・ロイス並の仕上げを設えるなどの仕事も請け負っていた。ロスチャイルド一族のオーナーは、アルファGTAもよい素材だと思ったのだろう。ボディは濃紺に塗り直され、ヘッドランプは四角いルノー用のシビエ製に換わり、GTAの特徴である小さなドアハンドルはスタンダードなアルファの部品に交換された。また軽量シートは重く豪華なものに交換され、リアには"大型のクレオパトラチェア"が取り付けられた。1980年代後半まではこの厚化粧の状態であったが、それによってレースで酷使されたあげくスクラップとなるのを免れた。

ハロルド・ラドフォード仕様のGTAは、1992年にアルファ・エンスージャストのロン・オカナーによって救出され、ボブ・ダブが元のGTAストラダーレの仕様に戻し、その後、2005年にリチャードの手元に納まった。

「錆などによる大掛かりなレストアは不要でした。スティール製のモノコック部分もよい状態で、ラドフォードによるモディファイは簡単に戻すことができました。ボディではアルミとスティールが接する部分に化学反応(電触)の痕跡が見つかったのですが、そこを補修するだけで済みました。標準装備だったグレーの軽量シートを探すのには苦労しましたが、運良くGTAをレース仕様に改造したオーナーと出会い、GTAギアボックスと交換することで入手できました」と、リチャードは入手当時のエピソードを語ってくれた。

本誌の撮影のために列車でクロイドンに向かい、リチャードのクラシック・アルファ社を訪ねた。敷地内には744㎡におよぶアルファロメオのパーツ保管倉庫があり、7名体制で運営されている。リチャードは、以前はサウンド・エンジニア兼プロデューサーとして、ブライアン・フェリーや映画作曲家のクレイグ・アームストロング等と仕事をしていたというが、1990年代に趣味が高じて現在のクラシック・アルファ社を設立した。

ファクトリーに置かれたGTAストラダーレは小さく機能的に見え、綺麗だがほどよく使い込まれたコンディションが快い。リチャードはバンパーを外し、有名なクアドリフォリオのデカールをフェンダーとリアパネルに備えている。製造から半世紀を経て劣化の心配もある6インチのオリジナルホイールは大切に保管し、現在は同じデザインのカンパニョーロ製を履かせているが、サンドブラストをかけてオリジナルに近い雰囲気を再現している。

内装は濃いグレーのビニール張りで、軽量のバケットシートはタイトにドライバーを包み込む。ダッシュは軽量ハードボード製で、油圧計、油温計などヴェリア製のメーターがあり、レヴカウンターは8000rpmまで刻まれている。

ボンネットを開けると、ツインプラグ、2基の45DCOE14型ウェバー・キャブレターを装着したツインカム、そしてコルサ用のインレット・トランペットが見える。標準型GTAエンジンは6500rpmで115bphだが、レース用にチューンされた1600ccアウトデルタ・グループ2仕様では170bhp、1.6ℓユニットのストロークを縮小した1300ccGTAジュニア・グループ2エンジンでは8000rpmで135bhpに達した(2.0ℓのGTAmグループ2ユニットは220bhp)。

リチャードは、オイルクーラーの設置場所を作り、キャブレターへの空気の流れを邪魔しないように備えられた幅の狭いGTA用ラジエーターの存在を示してくれた。また、オイル容量を増やすための深いマグネシウム製のサンプも用意されている。レース用のチューンでは、さらに2種類の深さのサンプのほか、軽量のマグネシウム製カムカーバーとベルハウジング、ギアボックス内のギア類にも重量軽減口が開けられたものが存在するほか、リアアクスルを位置決めする"Tアーム"もアルミニウム製の設定がある。これらは、すべてはレースで優位に立つためのメカニズムだ。

GTAに乗り込み、まずリチャードが入念にエンジンを暖めながら郊外へと走らせ、そこで私がステアリングを受け取った。小さなドアハンドルに指を掛けてドアを開けると、そのドアの軽さを実感した。バケットシートによる着時位置は低く、体に密着する。コクピットからの視界は良好だ。

エンジンをスタートさせると、ウェバー・キャブレターの吸気音が快く響きわたった。リチャードが手を入れたエンジンは3000rpm以下では不服そうだ。スタートし、スロットルを踏み込んでギアシフトを繰り返して行くと、瞬く間に5速に入った。こうしてフルに加速させるとGTAは本領を発揮する。エンジンは高回転へ昇り詰めることを望み、トップスピードに向かうにつれて安定していく。

カントリーロードに出ると、GTAはさらに精彩を帯びる。サスペンションは路面によく追従するので不安感を覚えることはなく、ウォーム・アンド・ローラー式のステアリングは軽く正確であり、いったんラインを決めたならGTAはそこから外れることはない。すべてのコントロールは高速で使っていても心地よく、ハンドリングは申し分ない。オリジナルのダンロップ製ディスクブレーキは、後に悪評を受けて後にATEブレーキに置き換えられるが、路上では充分効果的だった。「GTAの軽量さはサーキットでよりいっそう実感できる。コーナーへの進入の際にはブレーキングのタイミングを遅くすることができ、また速度をあまり落とさないですむ。スタンダードなGTよりも反応がよい」とリチャードは語る。

キティは優れた頭脳を持ったエンジニアであり、コンパクトでバランスのとれたマシーンの細部に注意を払って開発を進めた。タフで信頼性のあるスタンダードなツインカムエンジンは、ツインプラグヘッドを備えることでパワーを引き出し、贅肉を削ぎ落とした軽量化なボディがそれを助けた。

GTAは耐久力が試される長距離ツーリングカーレースで力を発揮し、"ジャイアントキラー"との異名を取ったが、それはすべてベースとなったアルファロメオGTAストラダーレが持つ素地のよさに起因している。GTAは、まさに路上で楽しむことのできるコンペティションカーなのである。


今回、取材したGTAは新車当時からイギリスにある右ハンドル仕様車で、レース経験が皆無なストラダーレだ


現在のオーナーはバンパーを外しているほか、経年劣化が心配されマグホイールは保管し、アルミ製のレプリカを使用している


GTAでは飾り気のないグレーのダッシュパネルを備える。室内は完全にオリジナルの状態を保っているが、実は......


GTAの特徴はアルミボディと、ツインプラグ・エンジンにある。オーナーはレース用の吸気トランペットを装着している

Cars1966 アルファロメオ・スプリントGTAストラダーレ
エンジン形式:4気筒、DOHC、ツインプラグ
排気量:1570cc(78×82mm)
最高出力:115bhp/6500rpm(DIN)
最大トルク: 11.0kgm/4000rpm(DIN)
トランズミッション:5速マニュアル、後輪駆動、リミテッドスリップ・ディファレンシャル(LSD)
ステアリング:ウォーム・ローラー
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー(リア):リジッド、ラジアスロッド、Aブラケット、コイルスプリング、テレスコピックダンパーブレーキ:ディスク
重量: 820kg
最高速度:195km/h. 0-60mph:8.5秒

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