シェルビー・コブラ427|邪悪な走りと語り継がれるレースカーの意外な本性

シェルビー・コブラ427

コブラには恐ろしい伝説があるが、実はそれほど邪悪ではなかった..。このレース仕様のコブラをグッドウッドで走らせて、むしろその逆であることをOctane編集部が発見した

火曜の午後

「音量規制をパスできるはずがない」。グッドウッド・モーター・サーキットのパドックで、いきなりそう告げられた。内心では、その通りだろうと思っていた。フェスティバル・オブ・スピードを数日後に控え、トラックデーに集った今時の車に交じると、凶暴な427コブラは、別の時代の置き土産そのものに見えてくる。それはまるで"セックスは安全、自動車レースは危険"だった頃のように。

それでもコースに出て撮影を続けるには、とにかく音量を測定してもらうしかない。コブラを計測エリアまで転がしていくと、1人のマーシャルがこれ見よがしに測定器を構え、もう1人がクリップボードをチェックしながら、レース仕様の427サイドオイラーV8エンジンが最高回転数の4分の3まで上がるのを見守る。

計測中、考え込んでいる様子だった表情が突然晴れて、OKが出た。なんと音量試験をぎりぎりで通過できたのだ。これでコースに出ることができる。それでも音量を抑えるようにと強く念を押されたので、今日はフルスロットルで加速したりドリフトを楽しむ雄姿は撮れない。だが、本物のレーシング・コブラでグッドウッドを周回できるチャンスはめったにあるもんじゃない。この貴重な機会は大事にすべきと自分に言い聞かした。

このコブラは右ハンドル仕様。しかもイギリスの登録ナンバー「LOV 1」を付けているから、知る人が見れば一目でオーナーが誰だったかが分かる。LOV 1は1960年代にレースで数々の成功を収めたグレアム・ワーナーのレーシングチーム、「チェッカード・フラッグ」のトレードマークである。「もともとこのナンバーは、下取りで手に入れたアームストロング・シドレーに付いていたんだ」と陽気なワーナーが振り返る。当時の記憶は今も鮮やかだ。「車から車へと付け替えていって、とうとう手放したのは1990年代に入ってからさ」。このコブラに"LOV1"が戻ってきたのは何十年ぶりである。現オーナーは、ジャガーEタイプのレストアで有名なイーグル社のオーナーで、ヒストリック・グループCレースでも活躍するヘンリー・ピアマンである。彼は今回のグッドウッドでの走行のために、このナンバーを何としても復活させずにはいられなかったのである。

グレアム・ワーナーは、本当にこのコブラのことをよく覚えている。「うちは、トミー・アトキンスのものだった289コブラを所有していて、かなりいい成績を収めていた。だが、パディー・マクナリーが7ℓのコブラを売りに出したことを耳にしたんだ。それはかなり高額なプライスが付けられていたが、戦争直後のグッドウッドに改造ジャガーで出走していたポール・パイクロフトが援助を申し入れてくれたんだ。たしか総額の20%だった。彼はこの車で大陸のヒルクライムに参加したいと思っていたんだ。それで一緒に買うことにした。オレも1度だけ自分で運転したよ。高速道路を走ったんだが、とても扱いやすい車だという印象だったな」

ワーナーが手に入れたコブラは、シャシーナンバーCSX3006で、1965年前半にプライベーター向けに製造されたわずか16台のうちの1台である。大排気量コブラの目的は、当時力を増していたフォードのライバル、シボレー・コルベットにFIAのGTクラスで対抗することだった。だが既に289では開発の限界に達していたのだ。しかし、その戦略にはひとつの問題があった。1965年4月29日にFIAの調査官がシェルビーを訪問した際、ホモロゲーションに必要な100台のうち、約半分の51台しか完成していなかったのである。同じ理由でフェラーリ250LMがレース車両からの除外が決定しており、ましてアメリカ車が認められるはずもなかった。ACカーズに発注していた残り49台のシャシーは不要になり、シェルビーは注文をキャンセルすることにした。

しかし、その後FIAが意外な行動に出る。1965年6月に、コンペティションGTクラスを新設したのだ。それなら427コブラにも参加資格があったが、フォードエンジンを積んだコブラが、フォードGT40と直接対決することになってしまう。キャロル・シェルビーにとっては、コブラよりGT40のプログラムのほうが重要だった。シェルビーは「ブルーオーバル」を喜ばせるために、427をプライベーターにしか売らず、「ワークス」としてエントリーしないことに合意した。だが、比較的高額だったコブラの受注は鈍く、レーシングカーとしては3台だけ増えて、トータルで19台にとどまった。プロトタイプ2台も含めて残った34台のシャシーは、ストリートバージョンとして製造され、史上最速のロードゴーイングカーという謳い文句で販売された。この実質レーシングカーは、「セミ・コンペティション」のイニシャルから427 S/Cと名付けられ、今はかなりの高額で取引きされている。

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