最も美しいレーシングカー |マセラティ200SI マセラティ250S

Photography:Martyn Goddard

レーシングコースでもマーケットでも、マセラティの4気筒レーシングスポーツカーはフェラーリのよきライバルであった。

入念なウォームアップを続ける2台の赤いマシンの横で、私は緊張しながら判断が下されるのを待っていた。バリバリと排気音がガレージ内に鳴り響き、外は早朝の霧に加え、運の悪いことに新雪が積もっていた。

4気筒レーシング・マセラティは、一時期、歴史から消えかけたが、現在はたくさんの注目を浴びる旬なマシンである。

試乗のため、私たちはイタリアまで足を運んで来たのにもかかわらず、くるぶしまで積もった新雪が出迎えてくれた。貴重な機会を失ってしまうのではないかと気を揉みながら、今回、私たちを案内してくれたドットーレ・ウルフ・ヅヴァイフェルの判断を待つことにした。

ヅヴァイフェルが周辺の偵察から戻ってくると、「行きましょう。幹線道路から大きく逸れなければ問題はないです。大丈夫、この2台はもっとひどい状況でも走っていましたから」と笑顔でゴーサインを出してくれた。



4気筒マセラティの誕生
マセラティの4シリンダー・コンペティションカーは決して安泰な道を歩んできたとはいえなかった。特に200SIと250Sの2台は、同じ4気筒でも150Sやバードケージと比べて、さらに日陰におかれていた。主にアマチュア向けの普及モデルと位置づけられていたことから、資金難に悩まされていたマセラティが上級モデルに行うような開発作業をしていなかったことも災いした。その頃のマセラティは全般的に扱いづらい印象を与えていて、フェラーリの影になる存在であった。

フェラーリ・ヒストリック・チャレンジレースにマセラティが参加できるようになると、4気筒マセラティがフェラーリと同等もしくはそれ以上のスピードが発揮でき、なおかつ運転しても楽しいという興味深い事実が明らかになった。市場はすぐさまこれに反応し、マセラティが優位にたった。"マセラティ・フォー"の第一人者で、その多くを所有し、レースの経験も豊富なヅヴァイフェルは「フェラーリ750モンツァは良いドライバーが悪く見えるが、200SIに乗るとイマイチなドライバーでも格好良く見える」と語っている。

実際に、優勢だった6シリンダー・マセラティに対抗し、"たった4気筒しかない"マシンでレースを仕掛けたのはフェラーリだった。2リッタークラスのレースでV12エンジンのフェラーリ166MMに後塵を浴びせかけたマセラティは、6気筒のA6GCS2000だった。

グランプリレースでは、マセラティがA6GCSから枝分かれしたA6GCMを投入すると、フェラーリのアウレリオ・ランプレディ技師は、V12に固執していたエンツォに対して2リッタークラスでは軽量でシンプルな4気筒のほうが適しているからと説得。ティーポ500を完成させると、フェラーリはグランプリレースのタイトルを手中に収めた。さらに1953年終盤には、ティーポ500のエンジンをデチューンして搭載したスポーツカーの500モンディアルを発表。マセラティもこれに続き、4気筒モデルを投入した。

モンディアルの改良型が登場した頃、マセラティのエンジニアであるヴィットリオ・ベランターニは、フェラーリの4気筒が登場する以前から手掛けていたF2用ツインカム4気筒エンジンの開発に追われていた。それはレーシングスポーツカー向けの1.5リッター(150S)と2リッター(200S)になる予定で、小さな150SはポルシェとOSCAをライバルに想定していた。1955年にはプロトタイプによるテストが開始されている。

200Sと200SI、その2.5リッター版の250Sは、総数で32台だけしか出荷されなかった。エンジンのスペックを列記すると、1気筒2バルブ、総軽合金製シリンダーヘッドおよびブロック、デュアル・イグニッション、2連装ウェバー・キャブレターを備えた。これに4段または5段フルシンクロ・ギアボックスが組み合わされた。シャシーはサイドメンバーに楕円鋼管を用いたラダーフレームで、サスペンションは前・後軸とも独立懸架(最初の3台を除く)を備え、ブレーキは4輪アルフィンドラムであった。いずれのモデルもエレガントな2座スパイダーボディを備え、主にファントゥツィが架装を手掛けた。

マセラティの"フォー"は八面六臂の活躍を見せ、好結果を残している。1956年のFIAホモロゲーション規定に基づき、主にロードエキュイップメントが異なる200Sと200SIは、車重が600kg未満であり、170bhpのパワーと相まって、条件さえ揃えば6気筒3リッターエンジン搭載の300Sにも匹敵するスピードを発揮できた。


ツインカム、4気筒2リッターエンジンは175bhpを発揮し、トップスピードは200km/hに達する。シンプルで美しいインテリア

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:数賀山 まり Translation: Mari SUGAYAMA Words:Dale Drinnon

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事