水上速度記録を4回も塗り替えた伝説のスピードボート|ブルーバードK3

ブルーバードK3



ここで私デイビッド・バーゲスワイズが関わることになる。1988年、私はフォードのヨーロッパ社史担当オフィスの責任者を務めており、歴史に関わる様々な問い合わせに対応していた。マルコム・キャンベルはかつてフォードの重役だったこともあり、ソープパークがブルーバードK3を売却しようとして苦労していることが耳に入ったので、その情報を友人のポール・ファルクス-ハルバードに伝えた。ポールはサセックスでフィルチング・マナー自動車博物館を運営しており、1979年に亡くなった友人のレオ・ヴィラを通してキャンベルゆかりの品を相当数所有していたのだ。ポールはすぐにブルーバードK3を購入、もう動かないが歴史的価値の高いオリジナルのエンジンも手に入れた。また、戦後ドナルド・キャンベルが速度記録に挑んで命を落としたブルーバードK7のジェットエンジン、メトロヴィック・ベリルも博物館に収蔵した。

以前、古ビン回収ボックスにされていたアンティークの鋼鉄製スピードボートを復活させたことのあるポールは、翌年ブルーバードK3を実際に使える状態にレストアする作業に取りかかった。外見はしっかりしていたが、長年野晒しだったせいで船体内部はひどく傷んでおり、雨水が底にたまっている状態だったのだ。ただ残念なことに、まだ道半ばの2003年にポールは心臓発作で亡くなってしまう。しかし、息子のカールとそのチームは、再びK3を水上で走らせようとレストアを続けた。

様々な理由でRタイプエンジンは使えなかったため、代わりに27リッターのロールス・ロイス・ミーティアを積むことになった。これは750bhpの航空機用エンジン、マーリンのノンスーパーチャージャー版である。船体を木製の縦通材で補強し、クロムウェル戦車のものだったエンジンが乗組員のケン・ポープとアンディ・テイラーの手で積み込まれ、再びVドライブ・トランスミッションが搭載された。

ついに船体のレストアが完成し、密閉式の浮き150個を1930年当時マルコム・キャンベルがやったように卓球の球を詰めた袋に置き換えると、2011年初めに進水試験が行われ、見事成功を収める。次は、14年間動いたことのないミーティア・エンジンの復元作業だ。11月終わり、30ガロンの冷却システムを貯水槽代わりの古いジャグジーにつなぐと、ミーティアは轟音とともによみがえった。その後は冬の間、ブルーバードのシステムすべてについて厳しいベンチテストが行われた。

こうして2012年6月12日、蘇ったボートがヘイマーケット王立劇場の外で華々しくお披露目された。それはこの場所でメーテルリンクの劇「青い鳥」を見たマルコム・キャンベルが、レーシングカーに「ブルーバード」と命名してからちょうど100年になるのを記念する行事だった。K3が何度もエンジン音を響かせると、轟音がウェストエンド中に響き渡り、ヒッチコックの映画『鳥』さながらハトの大群が空に舞い上がった。

そのちょうど2週間後に、サセックスのビュールウォーターでK3の初テストが行われ、3回の走行が成功裡に終わった。スロットルの開度を徐々に上げ、4分の3開いたところでブルーバードが浮き上がると、岸が高速で近づいていたこともあり、カールは引き際だと判断した。2度目の10月には、最初の走行はうまくいったものの、ミーティア・エンジンのトルクでプロペラシャフトがはがれてしまい、ブルーバードは桟橋まで曳航されることになった。

2013年9月、再びビュールウォーターでテスト走行ができることになった。今回のブルーバードK3は完璧で、スピードに乗って何度も走り切り、高速時にその航跡を横切るのは、まるでトレーに乗って階段を滑り降りるような感じだった。だがK3には、もう世間に何かを証明してみせる必要はない。今与えられている使命は、1924年から1935年の間に地上速度記録を9回も更新した上、水上の速度記録を4度も塗りかえたキャンベルの伝説を後世に伝え、この桁外れな人物に敬意を表することなのだから。



2003年に亡くなった父親からK3のレストアを引き継いだカール・ファルクスハルバード。完成に当たって栄誉ある進水の任を果たした


歴史を再現するために荷台から降ろされようとしているK3。サセックスのビュールウォーターで

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA
Words and Photography: David Burgess-Wise

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