さらに進化を遂げたボロネーゼのフラッグシップ

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「アヴェンタドール S 」はアウトモビリ・ランボルギーニの新たなるフラッグシップモデルである。最大の特徴は、空力にこだわったデザインと優れたサスペンション、40HPも向上したパワー。この「S 」は、アヴェンタドールの系譜に引き継ぐ進化形であり、V型12気筒ランボルギーニの新たなベンチマークといえる。

ランボルギーニとは

ランボルギーニは、危うい歴史の連続だった。崩壊のキッカケはミウラであったと思う。今、世界中の車好きが追い求めるこの美しいミドシップカーこそが、ランボルギーニを現代へと連なるスーパーカーブランドたらしめた、と同時に、困難な歴史へと導きはじめる。ミウラの市販が始まるとほどなく、フェルッチオはスーパーカービジネスの困難さを実感する。トラクターとは違い、手離れの遅いビジネスモデルは苦痛であった。後を任せられたのは、若き天才パオロ・スタンツァーニであり、奇才マルチェロ・ガンディーニとともに、ミウラの後継となる新たなプロジェクトを推し進めた。若き才能たちが、会社の困難を乗り越えるための起死回生の一策が、クンタッチ(カウンタック)・プロジェクトであった。あまりにイタリアンクラシックに偏ったミウラのデザインを反省し、ガンディーニは未来を大幅に先取りした。カウンタックは確かに市場からの熱狂的な声援を受けたものの、社業を成長に導く商品とはなりえなかった。結果、社業が上向くことはなく、オーナーシップは幾度となく変わり、その間、カウンタックはなんと二十年近くに渡って造られ続けることになる。ランボルギーニ=カウンタック。ブランドイメージが固着したのも当然だろう。

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新たな血統が新しい進化をもたらす

1999年にアウディが支援に乗り出すと、事態が少しずつ好転しはじめた。ディアブロの後継となったムルシエラゴは、カウンタックのさらなる進化形として、それまでにない品質を担保するに至ったし、何よりも、カウンタックの呪縛を離れたV10モデル、ミニ・ランボルギーニをようやく世に問うことができた。ドアが上にひらかないランボ、ガヤルドだ。アウディ傘下となってからというものの、ランボルギーニは、カウンタックの会社であり、ミウラの会社でもあることを、それまで以上に積極的に打ち出すようになる。世間のイメージに逆らうことをやめれば"ユニーク" が手に入る。そう、考えたのだろう。かくして、新型フラッグシップとして登場したアヴェンタドールは、カウンタックのDNAを色濃く受け継ぎつつ、そのナカミを何から何まですべて刷新し、しかもミウラ時代のデザインテイストを織り込んでみせることで、ミウラから始まるスーパーカーブランドとしての歴史の筋道を再定義することに成功したのだった。アヴェンタドールは、デビュー直後から、唯一無二のミドシップスーパーカーとして、全世界で大人気を博す。デビュー後からマイナーチェンジを迎えた昨年まで、バックオーダーの列は長く続いたままだった。2011年のデビュー以来、5年間で6000台以上を生産。これがいかに図抜けた数字であるかは、カウンタック約2000台(15年間)、ディアブロ約2900台(10年間)、ムルシエラゴ約4000台(10年間)、という過去のフラッグシップモデルの生産台数を見ればよく分かる。前期モデルの最後を飾ったのは、限定モデルのSV=スーパーヴェローチェだった。この名称は、ミウラやディアブロにも使われた(ただし、略した名称は異なっていて、ミウラSVはスピント・ヴェローチェ、ディアブロSVはスポーツ・ヴェローチェ)、由緒正しき名称だ。

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アヴェンタドールのマイナーチェンジと時を同じくして、10年に渡りランボルギーニに成長をもたらしたステファン・ヴィンケルマンがアウディ・スポーツCEOとなり、後任に地元ボローニャ出身で元フェラーリF1ディレクター、ステファノ・ドメニカリが新CEOに就任する。LP750-4といったそれまでのネーミング法をシンプルに改め、後期型は単にアヴェンタドールSと呼ばれることとなった。

歴史的にみて、進化版にSの名を与えたランボルギーニモデルは多い。一説によると、かのパオロ・スタンツァーニがエボリューションモデルをシンプルにSと呼ぶことを好んだらしい。アヴェンタドールSという名は、デビューと時を同じくして惜しくもこの世を去った、現代のブランドイメージの恩人である天才エンジニアへのオマージュでもあったのだろう。

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アヴェンタドールSの進化幅は、前期モデルの欠点のほとんどすべてを克服したという点で、とてつもなく大きいものだった。SVに採用した各種の電子制御技術、可変ギアレシオステアリングや磁性流体ダンパーを採りいれた上で、新たに4WSを搭載。また、エンジンは数字こそマイナス10PSの740馬力ながら、実質ほとんど同等というべき性能の6.5リッターV12自然吸気であり、ISRトランスミッションもいっそう熟成が進んでいる。スタイリングは空力性能とエンジン冷却性能を大幅に向上すべく、派手さはないが、機能本位で改められた。どことなくカウンタック風味という点も、面白い。

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デフォルトも含めて27種類もの組み合わせから選べる乗り味の変化もまた、劇的であった。ひとたびSを味わうと、性格のまるで異なるSVはともかく、前期モデルにはもう絶対に戻れないと思ってしまうほどだ。

ワインディングロードのタイトベントでは、まるで「小さくなったアヴェンタドール」に乗った気分であった。サーキットでは、SV級に楽しめる。それでいて、一般道でのマナーは、ウラカンほどではないにしろ、確実にグレードアップしている。

文:西川 淳 写真:芳賀元昌

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