GTーグランドツーリング|ロンドンからブリュセルへランチを食べに気軽に足を伸ばす休日

Photography: Matthew Howell

自動車に乗って、遠くまで足を伸ばす。目的地に早く快適に到着することが大切なのか、または運転そのものが楽しみの場合もある。グランドツーリング、略してGT。自動車の生活様式を表現する記号として、これほどイメージと夢が膨らむイニシャルはない。走ることができる車があって、そこに費やす時間があるならば、すぐに支度をととのえてハンドルを握ろう。たった一杯のコーヒーをどこかで、飲むためだけだとしても

ブリストルで行くブリュッセル
ロンドンから往復460マイルの距離にあるベルギーの首都ブリュッセルは、健啖家をうならせるような、その素晴らしい地元料理で知られている。今から日帰りでランチにでも行ってみるかい?それがブリストルでならば、たいしたことはない

ランチのための超特急クーペ
しっかりとしたランチを摂ることは、文化的な生活の基本だと私は考える。それがフォーマルなものであれば、なおさらいい。また親友とのランチならば 2時間くらいはゆっくりと過ごすべきだろう。どんな美味しいものに出会えるかは、その期待と動機付けのために大切なことであるし、また豊かな時間を確実に過ごすためには、前もって幾分かの努力が必要なことは言うまでもない。あとは状態が良くて手頃な値段のワインが十分に用意されていて、締めにはキューバ産のしっとりとした葉巻で締めくくる。これで完璧だ。

しかし昨今のランチは、宗教的なほどまでに禁欲の対象とされているように思われる。私たちは背中を丸めてキーボードに覆い被さりながら、せわしなくコンビニのサンドイッチを口に運ぶのだ。ただしコンピューターのキーボードが、それほど清潔ではないことは理解すべきだ。消化不良の予防に過敏な私たちは、だからグラス1、2杯の上質なワインを飲む。それが神のご加護をもたらす。そういうことにしておこう。

さて、ベルギーの、特にブリュッセルには、ヨーロッパでも指折りのレストランが点在する。私はこの街をあまり知らないが、ベルギー人のパスカル・メーターはよく知っている。彼は食通であり、素晴らしく料理上手だが、同時にパスカルは熱烈なクラシックカードライバーでもある。

エドワード王時代の紳士、サー・ジョージ・ホワイトの息子、サー・ジョージ・G・スタンリー・ホワイト・BTは、1914年から1954年までブリストル・エアロプレーン社の社長であった。第二次世界大戦後、サー・ジョージはブリストル社製の飛行機や飛行機用エンジンの需要が枯渇することを察し、フレーザー・ナッシュの製造やBMWの英国輸入業者であったAFN社と仕事をはじめた。終戦後、AFN社のHJ・オールディングトンはミュンヘンへ行き、戦時賠償のひとつとしてBMWの3車種と328のエンジンの製造権を取得した。

しかしブリストル社とAFN社の協力関係はやがて破綻し、ブリストル社の自動車部門は独立した自動車製造部門となった。ブリストル400は、1947年のジュネーブモーターショーで初お披露目された。それはスポーツカーではなく、どちらかというとハイクオリティーな紳士向けの4シーターであった。改良されたBMW328の6気筒エンジンが搭載され、そのステアリングとハンドリングは素晴らしいものであった。

1949年のミッレ・ミリアのツーリングクラスで、ブリストル400は、ジョニー・ルラーニ伯爵のドライブにより3位でフィニッシュした。400は、1961年までに401、402などへと進化していき、オートマチック・トランスミッションと組み合わされた素晴らしいクライスラーV8を搭載した新型の407が発表されると、純粋なブリストル信奉者は、尊い6気筒エンジンがアメリカンV8に載せ替えられたとショックを受けたが、新しいV8エンジンはそれなりに素晴らしく、大いなるグランドツーリングの楽しみを約束してくれた。

元レーシングドライバーの中で唯ひとりブリストル代理店のオーナーであったトニー・クルックは、最近この世を去った。もうちょっとパワーがあればと、トニーは常々思っていたという。この大きな心臓を持ったマシンは、ブリュッセルでランチを楽しむようなモータリングアドベンチャーにはもってこいと言えるモデルだ。

ここにある"ホワイトグリーン"色で仕上げられた1968年型ブリストル410は、パスカル・メーターが最近手に入れた車である。サー・ジョージ・G・スタンリー・ホワイトのひ孫、ジョージ・ホワイト(5番目のジョージなのでフィリップと名乗り、皆を混乱させている)は、現在ブリストル・カーズで働いており、今回はメタリックブルーとオリジナルの黒のビニールルーフにフィニッシュされた1970年型ブリストル411シリーズ Iをもってきてくれた。


ロバート・コーチャーとその仲間たちは、夜明けにチェルシーにあるパスカルのガレージで落ち合った

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編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:野崎 健人 Translation: Kento NOZAKI Words: Robert Coucher

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