これが英国車?ランボルギーニと瓜二つのジャガー|ベルトーネ・ジャガー・ピラーナ

ベルトーネ・ジャガー・ピラーナ(Photography: Justin Rosenberg)

1967年のある時、イギリスの日刊紙、『デイリー・テレグラフ』で自動車を担当する記者たちが、"夢の車"をテーマとして話合いを行っていた。編集長のジョン・アンスティーは、紙面で筆を奮う論客たちが繰り広げる熱を帯びた討論を机上で終わらせるほど、才覚に乏しい人物ではなかった。「実際に造ってみろ」とけしかけたのだ。「こんなチャンスは二度とない」と

ガンディーニが腕を奮った
"夢の車"を実現する条件として上がったのは、速く、機敏で、くつろげ、そしてスタイリッシュであることだった。こうして1967年に誕生したワンオフのドリームカーが、ベルトーネ・ジャガー・ピラーナである。ベースはジャガーEタイプ、ボディはイタリアのカロッツェリア・ベルトーネに委ねられた。

『デイリー・テレグラフ』はジャガーの創業者であるウィリアム・ライオンズに掛け合うと、Eタイプ2+2のメカニカルパーツ一式とボディシェルを購入。ボディのデザインと製造についてはヌッチオ・ベルトーネと契約を結んだ。それは1967年4月末のことだったが、『デイリー・テレグラフ』側は、半年後の10月に開催されるロンドン・モーターショーでデビューさせることを設定した。

ヌッチオ・ベルトーネとチーフデザイナーに就任したばかりのマルチェロ・ガンディーニは一刻も無駄にはしなかった。二人は手仕事でクレイモデルを製作すると、すぐさま実物大の線図を描き、この段階でバランスの修正を施す、次は木型を造り、それを元にしてベルトーネの職人たちがスチールとアルミのシートパネルからボディを叩き上げた。

Eタイプのシャシーを利用するのは、それだけでたいへんな作業だった。たとえば戦前のロールス・ロイスなら、強靱なラダーフレームの上にコーチビルダーが自由奔放にボディを載せることもできたが、それとは訳が違う。Eタイプ独特のあのボディラインは強度の源でもあり、それを強固なモノコック構造が支えていた。したがって、ベルトーネのコーチビルダーたちは新たなボディを架装する際には、Eタイプの構造を慎重に分解し、組み立て直さなければならなかった。

夢、叶う
こうして、ついに記者たちの夢が形になった。直線的なパネルと滑らかなラインの組み合わせは、ガンディーニのカーデザイナーとしてのキャリアでも初期の特徴をよく示している。ピラーナと名付けられたこの車は、同じ年にガンディーニが手がけたランボルギーニのコンセプトカー、マルツァルと似たシルエットだった。だが、ピラーナには実用性があった。ドアはマルツァルの巨大なガルウィングではなく、一般的なもので、後方の視界も良好だった。ガラス製ハッチバックはほぼ水平だったが、その下部に設けられたガラスパネルのおかげで視界は良好で、さらにこの部分は換気のために電動で引き下げることもできた。

仕上げに、ホイールアーチにマッチしたリム幅の太いDタイプ用マグホイールとレーシングタイヤを履かせた。ボディはシルバーのメタリックに仕上げられ、アルミの粒子がモーターショーのライトを浴びて魅力的なきらめきを放つことになっていた。

最初のアイデアから、わずか5カ月ほどの1967年9月26日に実際に"実動する"ピラーナは完成し、10月のアールズコートでのデビューに滑り込んだ。

インテリアはEタイプのイメージを踏襲した機能的な意匠だったが、当時としては最先端の装備が設えてあった。たとえば、ダビングも可能なテープレコーダーを備えて口述録音や好きな音楽が楽しめ、エアコンはドアに吹き出し口を備え、また冷気はルーフ中央から吹き出すというアイデアを盛り込んでいた。また、義務づけられたばかりのシートベルトも備わっていた。


ジャガーのステアリングやスイッチ類を移植しながら、ベルトーネはいかにもイタリアンなコクピットに仕立て上げた。通気口のルーバー状のフィンがリアに独特の表情をつけている


どこかで見たような気がする?『デイリー・テレグラフ』の夢の車は、ランボルギーニ・エスパーダと似ている。直前にデビューしたガンディーニ作マルツァルとも通じる

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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Myles Kornblatt

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