これが英国車?ランボルギーニと瓜二つのジャガー|ベルトーネ・ジャガー・ピラーナ

ベルトーネ・ジャガー・ピラーナ(Photography: Justin Rosenberg)



蘇ったピラーナ
誕生のルーツがモータージャーナリストにあることに敬意を表して、スーパーフォンは最初の走行をオクタンに任せてくれた。

完成したばかりのプロジェクトをシェイクダウンするのは楽しいものになるはずだが、公道でやるような仕事ではない。そこでマリブクリーク馬術センターを借用することにした。カリフォルニア州マリブ郊外のサンタモニカ山脈に位置し、22エーカーの敷地にわたって起伏のある私道が伸びるという絶好の環境である。

ステアリングを前にすると、Eタイプのオーナーなら慣れ親しんだ感覚を味わうことだろう。だが同時に、奇妙な違和感も覚える。ベルトーネは、計器やスイッチ類をすべてドナーのEタイプから流用したが、新しいアイテムを入れるために配置を変えたのだ。センターパネルには、手動でオン・オフを選択できるシートベルトの警告や油量計など、新しい機能が並ぶ。 

ピラーナのトレッドは、レース用タイヤを履いているため通常のEタイプより2.4インチ(約60mm)広いが、ボディの全幅はほぼ同じだ。それにもかかわらず、大幅に広い印象を与えることに成功している。Eタイプに乗っていると、コクピットの形状から何となく内側に寄りたくなるが、ピラーナはサイドがフラットで車内が広いため、男性2人が乗っても肘が当たる心配をしなくて済む。一方、イグニッションは、 Eタイプではセンターにあって都合が良いのだが、ピラーナでは、右ハンドルの英国車であることを強調するかのように、ステアリングの右側に移っている。

4.2Lエンジンは、Eタイプのままのスペックなので、アイドリングではあの気持ちのよいカチカチという音がするし、トルキーなので今回のテストコースの上り坂もそれほど踏む必要がなかった。回転が上がったときのエキゾーストノートは、実際よりエンジンが必死に働いているような印象を与えるが、イタリア車の甲高い音ではなく、イギリスの荒くれ男といった感じである。

エンジンに余裕を感じるのは、『テレグラフ』が2+2を選んだことが正しかった証拠だ。なぜなら、ピラーナは同等のスポーツカーより少し車重が嵩むのである。特注のスチール製ボディに贅沢な装備が加わって、ベースとなった後期シリーズ1より、重いシリーズ2に近い。Eタイプ独特の機敏さをグランドツーリングの快適性と交換した形だ。それでも接地感やバランスはよく、重量がうまく配分されている。アルミ製ボンネットも重心高を僅かながら下げる上で一役買っていることだろう。

Eタイプの2+2は、ホイールベースが伸びたため、ロードスターやクーペというよりグランドツアラーの雰囲気が強い。それに加えてピラーナは広さと重量が増し、いっそう2+2よりになっている。Eタイプ2+2とXJ-Sの中間を想像してもらえば、雰囲気を掴んでいただけるだろう。

ピラーナの直線的なボンネットは、曲線を描くEタイプのものとは対照的だ。Eタイプはエンジンを搭載した中央部が盛り上がっているが、ピラーナはくぼんでいる。それより重要な点は、Eタイプのフロントフェンダーは張り出しており、ポルシェ911同様、車の端が分かりやすい。ところがピラーナの場合、前方に張り出したノーズで道路が見づらい。ここでは機能性より流行が重視されたのだ。

レストアされたピラーナは、2012年モントレー・ヒストリック・ウィークのコンコルソ・イタリアーノで再デビューを飾った。その場に立ち合ったベルトーネのデザイン・ディレクター、マイケル・ロビンソンは、当時はボンネットで腕を競う風潮があったと説明してくれた。「ピラーナのようなプロトタイプのボンネットは、自分の力を見せつける場だったのです」と語っている。

コンコルソに来ていた別のゲストから、ピラーナにまつわる逸話をもうひとつ聞いた。故ヌッチオ・ベルトーネの妻であるリリー・ベルトーネが、"Pirana"という不思議なスペルは、デザイン第一の亡き夫が美的観点から選んだものだと教えてくれたのだ。車のサイドに入っているロゴは通常のスペルの"Piranha"だが、ヌッチオは"h"のない字面のほうが好ましいと感じ、バッジが付いたあとにスペルを変えることにしたのだという。

名前以外にも好奇心をくすぐられることがある。ピラーナが、ランボルギーニ・エスパーダと瓜二つに見える点だ。エスパーダはベルトーネ作のボディで、ピラーナのデビューから1年もたたずに量産が始まった。これほど似ていると、ベルトーネはただジャガーから雄牛にバッジを付けかえただけなのではないかとすら思えてくるが、この疑問を確認する機会が訪れた。コンコルソのメインステージにロビンソンとピラーナが登場した際、そのすぐ後ろがエスパーダだった。その場の雰囲気は、生き別れた双子の再会という感じではなかった。エスパーダとすぐ近くに並んで、この場でやっとピラーナの独自性がはっきりしたのである。

エスパーダのボンネットは、全長の長い2+2スーパーカーのサイズに対して、うまくバランスが取れている。対してピラーナの長大なノーズは、客室へ向けて引き伸ばされた"スリングショットのゴム"のようで、Eタイプ独特のプロポーションと似ていないこともない。それでも、この2台が同じデザイナーの手になることは明らかで、エスパーダと比較して初めてピラーナがジャガーらしく見えてくる。

さて、ピラーナを自動車史の中にどう位置づけるべきだろう。特注のジャガーか、ベルトーネ幻のプロトタイプか、ランボルギーニを語る際の"脚注"か……。実はそのすべてに当てはまるというのが正しいと私は考えている。そしてそれは古き良き時代の象徴でもある。その時代には、装備一式がそろった夢の車を作る力がモータージャーナリストにあった。まるでジェームズ・ボンドの映画のようだといったら、夢物語が過ぎると思われるだろうか。


ピラーナは隅から隅までイタリアン・スーパーカーだ。しかもベースとなったEタイプS1より少なくとも一世代ほど若い。ただし、美しさで勝るかどうかについては疑問が残るが

1967年ベルトーネ・ジャガー・ピラーナ
エンジン:4235cc、直列6気筒DOHC、SUキャブレター×3基
最高出力:265bhp/5400rpm
最大トルク:39kgm/4000rpm
変速機:前進3段AT+後退、後輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、トーションバー、テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):ロワーウィッシュボーン、等長ドライブシャフト、ツインコイルスプリング、テレスコピック・ダンパー
ブレーキ:ディスク 車重:1500kg(推定)
最高速度:233km/h、0-100km:8.5秒(どちらも4速MTによる推定値)

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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Myles Kornblatt

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