F1レーサーの助手席に乗り込みサーキットへ│どのような体感を得るのだろうか

グッドウッド・モーターサーキットで開催されたヴェローチェ・トラックデイでは、70人のラッキーな人々へ、伝説的ドライバーと共にサーキットを走るという人生に一度きりの経験が捧げられた。

「きみの前にあるパースペクスのウィンド・デフレクターなんて何も役に立たないよ。イヤな風をたくさん顔面に受けることになるからね。」
そう言うのは、F1ドライバーのデイモン・ヒルだ。仕事中のような、そうでないような、リラックスした様子であった。決して、仕事だからやらなければいけないという雰囲気を見せずに、私の失礼な質問の数々にも辛抱強く答えてくれた。楽しそうにお喋りをして、動くたびに向けられる携帯にも動じている様子はなかった。



見事に晴れた日、サーキットのピットレーンでアストンマーティン DB3Sに乗り込む。私たちの前には誰もいないし、何もない。ただ、ライトが緑になり、司令官からゴーサインが出るのを待つだけだ。もちろんこの車は、ただのDB3Sではない。ワークスカーとして、スターリング・モスやピーター・コリンズがステアリングを握っていた1台だ。もちろん、グラハム・ヒルも。
1995年のアデレードでのグレン・ディクスを思い出させる、大きな腕の振りと共にトラックへ進み、ヒルはアストンマーティンを馴らせる。数時間前まで彼がこのDB3Sのステアリングを握ったことは無かったわけだが、すでに車の重さにもデイビッド・ブラウンの手強いギアボックスの扱いにも慣れているようであった。コーナーでのヒルは、被っていたキャップが風に飛ばされないようおさえながら、車をうまく操って曲がることに忙しそうだ。



ヒルのファーストラップは非常に優しい走りであったために、私はすっかりリラックスしていた。しかし、ファーストラップだと思っていたものはただのアウトラップであったことに気付いたのだ。シケインを過ぎるとスピードを上げ始め、片手でサングラスをおさえ、片手でシートを掴んで、という体勢をせざるを得なかった。3周目にはすでにヒルの曲がり続ける運転を恐れていた。彼にとってコーナーなど存在しないのだ。どんなトラックであっても"ラップ"でしかないというわけだ。

ラップがすべて終わり、パドックに戻るとデイモンは人生やキャリア、色々な話をしてくれた。今日の走りは実力のうちの50%にしか過ぎなかったそうだ。(私にとっては充分すぎたが。)また、次のレースに関する仕事を楽しみにしているとのことだ。

私の仕事は特権だらけだと見えるかもしれないが、今回の経験はいつも参加しているクラシックカーイベントとは全く異なる、極めて貴重なものであった。



2019年のヴェローチェ・トラックデイは9月25日に開催予定。



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