モダンクラシックメルセデス|最新エンジンにレストアする「メカトロニック」の驚くべき実力

モダンクラシックメルセデス



ここで、このように近代化されたクラシックカーの哲学について触れてみたい。人によっては完璧にオリジナルの状態を好むという人もいるだろう。もちろん、メカトロニックはコンクールを100点で勝ち取ることのできる車両をつくることができる。しかし中にはこのメルセデスのオーナー達のように、少し違ったものを求める人もいる。この2台の車のオーナーは、両者共にコンクール用ベンツを含め、羨むほどのコンクールクラシックコレクションを所有している。しかし彼らはドライビングを楽しみ、日常の足としてしっかりと応えてくれるクラシックカーが欲しかったのだ。じゃあなぜ新しいメルセデスを買わなかったのか。そう尋ねると、彼らはクラシックカーの外観とハンドメイドの感触が好きなのだと答えた。高くはつくが、その価値を損なうことなく、かつ日常的にドライビングを楽しむことができるクルマを求めたのだ。実に気が利いているではないか。

オーナーたちは私にフランシュフック・パスを走ってみるように強く勧めてくれた。まずはパゴダを走らせてみよう。インテリアは宝石のようで、クッションの入った大きな椅子はスプリングが効いている。抑え目なV8の響きと共にスタートする。街中を走る速度のうちは、4.3Lの軽量アロイエンジンは静かで低いトーンを発する。NAG社製の5速A/Tトランスミッションギアを入れると、SLは即座に滑り出した。ビレッジを走ると、ステアリングはタイトで瞬時に反応する。65シリーズのタイヤと質の良いシートによって、現代のスポーツカーのように苛立つことなく快適なドライビングを楽しむことができる。

私はこれまでに数々のSLに乗ってきた。オリジナルの直列6気筒は力強くトルキーで、1960年代のエンジンのクオリティのそれとわかるような反応をする。しかしこのSLに思い切りスロットルペダルを踏み込んでみて、そのエンジンの回転数を上げるパワーに驚いた。あまりに速く上がるので、ギアすべりを起こしているのかと思うほどだ。しかしそうではない。最新のV8はそれほど反応が速いのだとわかり、面食らう。急勾配のパスも、滑らかなトルクのおかげでどのギアでもスムースに駆け上がることができた。アイバッハ製スプリングとKW製ダンパーを備え、巧みに改良されたサスペンションが実にいい働きをし、クルマはしなやかに走り続ける。ブレーキは最新のABSを搭載しているから、ストレートをフルスロットルで走り抜け、ブレーキをかけ、タイヤの外側に重心をかけてコーナーを回る。再度アクセルを踏み込むとオートマティックトランスミッションが瞬時に最適なギア比を探し動力を供給する。

丹念に造り上げられた60年代のクラシックカーの感触と、そのクルマが発揮するモダンスポーツカーの速度。その不思議な感覚を脳が調整するのに数マイルかかる。しかしその十分すぎるパワーに、すぐに自分の勇気の限界を探りもっと走らせたくなる。

そのサウンドは大きくそしてメロディアスではあるが、このベンツのクオリティに相応しく、うるさすぎることはない。とは言えスピードは実に驚くほど速い。そしてもちろんSLにはリアシートの後部にウィンドディフレクターが装備されており、私の髪も乱れることはない。なんとも文明的ではないか。あと必要なのは除細動器だけといったところだ。

次はさらに大きなカブリオレを走らせる。機敏なSLの後に乗ると、少々野暮ったい走りに感じるだろうと想像する。しかしより容量の大きい5L V8とトルク、短めのギアリングを備えたカブリオレはアグレッシブに山をぐいぐい駆け上がっていく。

少し軽く不正確なパゴダのパワーステアリングよりも、どちらかといえばカブリオレの方が感触もいい。より軽量なパゴダではもっとスピードを出していたからかもしれないが、そうは思わない。カブリオレの方が確かに重いのだが、落ち着いてその重量をコントロールしている。フルサイズのカブリオレがこんなふうに反応するとは、実に不釣り合いな感じだ。4人を乗せて静かに走ることも、あるいは300馬力までスロットルを開けて、車をぐんぐん追い抜くこともできる。それも坂道で!

実に驚異的で優美なメルセデス・ベンツだ。日常のドライビングが楽しくなるなんとも素晴らしいアイディアではないか。アフリカで最も素晴らしい道のひとつでエキサイティングな走りを楽しんだ午後、私たちはユグノー地区ののどかな景色の中でソービニョン・ブランのグラスを傾けながら、クールダウンしているベンツに見とれる。世界トップクラスのメルセデス・ベンツのスペシャリストのひとつ、メカトロニックにより、最高水準のレストアと調整が施されたこの2台は、どちらも間違いなくメルセデスの最高傑作だ。

自動車の芸術品。私はとてつもないスピードで山を駆け上がったときのセンセーショナルな底力を想いだし、声を上げて笑った。美女と野獣の両面を備える車。しかし私が忘れられないのは、やはりそのとてつもないパフォーマンスだ。モダンクラシックはやめられない。


メカトロニック 280SE カブリオレ 3.5
エンジン形式:4966cc、V8、オールアロイSOHC、3バルブ/シリンダー、燃料噴射装置付き  最高出力 : 306bhp/5600rpm
最大トルク:47kg-m/2800rpm  変速機: NAG製5速A/T ステアリング:リサーキュレーティングボール式、パワステ
サスペンション(前):独立懸架式ダブルウィッシュボーン、テレスコピックダンパー、スタビライザー
(後):シングルジョイントスイングアクスル、補正スプリング、ラディウスアーム、テレスコピックダンパー 
制御装置: discs all round、ABS 
車重: 約1,570kg パフォーマンス:0-100km/h 7秒、最高速度 233kmh

メカトロニック・メルセデス・ベンツ 280SL
エンジン形式:4266cc、V8、オールアロイSOHC、3バルブ/シリンダー、燃料噴射装置付き  最高出力:279bhp/5750rpm
最大トルク: 40.8kg-m/3000rpm  変速機:NAG製5速A/T ステアリング: リサーキュレーティングボール式、パワステ 
サスペンション(前):独立懸架式ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、スタビライザー

(後):シングルジョイントスイングアクスル、ラディウスアーム、補正スプリング、コイルスプリング、テレスコピックダンパー
制御装置:Discs all round ABS 車重:約1,360kg パフォーマンス:0-100km/h 6秒、最高速度 233kmh

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編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE
原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.)Translation: Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) 
Words: Robert Coucher Photography: Ian McLaren
協力:メルセデス・ベンツオーナー、メカトロニック (www.mechatronik.de)、ジョアン・アルント(ライディングメカニック)、
フランシュフック・カウンシル

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