伝説のF1ドライバー、アイルトン・セナの非凡な才能が理解できる5つのレース

アイルトン・セナ、1994年シーズン開幕時の写真。ウィリアムズに移籍したセナはさまざまな思いを抱えていた

セナ・ファンが記した書籍
ブラジルが生んだ伝説的なF1ドライバー、アイルトン・セナが亡くなってから20年以上がたつ。その波乱に満ちた類いまれなレース人生を描く『AyrtonSenna:All His Races(アイルトン・セナ 全レース)』は、多くのライバルや同僚から得た新たな考察や視点を元に、1981年3月のブランズハッチでのフォーミュラ・フォード初戦から、最後となった1994年5月1日のイモラまで、セナが出走したレースを網羅している。その中からいくつかのエピソードを抜き出してみよう。

著者のトニー・ドジンスは、1981年8月のドニントンパークでのレースでセナの雄姿を見て以来のファンだという。その年、ドジンス自身も借物のヴァン・ディーメンでフォーミュラ・フォードに参戦していた。「セナがやっていたことは、私が夢みながらできずにいたことだった……、私自身の才能と可能性が見え始め、タイプライターの後ろに引っ込もうと決めるのも容易だった」と当時のショックを回想している。

この13年間に、セナの才能、情熱、執念は人々を魅了してきた。コクピットの中で常に100%の力を出し続けてきた。

「異なる時代のドライバーを比較するべきではないというが、私がモータースポーツを見てきた中で少しでも匹敵すると思うのは、ジル・ビルヌーブと、あとはミハエル・シューマッハーくらいだ」とドジンスは記している。

著者は本書を記すにあたって、セナの伝説に一役買った多くの関係者から直接話を聞いた。フォーミュラ・フォード時代を知るヴァン・ディーメンの創設者ラルフ・ファーマン。F1デビューイヤーを過ごしたトールマンからはアレックス・ホークリッジとパット・シモンズ。マクラーレン時代からはロン・デニス、ジョー・ラミレス、マーティン・ウィットマーシュ。そして、ウィリアムズで最後の数カ月間を共にしたデイモン・ヒルとデビッド・クルサードなどだ。さらに250点以上の写真が流星のように駆け抜けたセナのキャリアを明らかにしている。 

栄光の瞬間は数え切れない。トールマンでウェットの中、優勝まであと一歩に迫った1984年モナコ、ロータスでF1初優勝を飾った1985年ポルトガル、マクラーレンで初タイトルをもぎ取った1988年日本、壊れたギアボックスで初の母国優勝を果たした1991年ブラジル、ウェットで抜群の強さを見せて優勝した1993年のドニントンなどなど。逆に不名誉なレースもある。人間離れしたラップでポールを獲得しながらミスで優勝を逃した1988年モナコ、第1コーナーでプロストを道連れにしてタイトルを手に入れた1990年の鈴鹿。

1983年のイギリスF3でセナの最大のライバルだったマーティン・ブランドルは、本書のまえがきで「この男とその非凡さには、心からの尊敬の念しかない。一筋縄ではいかない人物だった。だが、偉大なチャンピオンは皆そうではないか」と記している。

1 ブランドルを破りF3チャンピオンに
1983年10月23日/スラクストン(英国)ラルトRT3 / 83
シーズンを通して激しい戦いを繰り広げたセナとマーティン・ブランドルだったが、前戦にポイントで上回り、ブランドルは首位で最終戦に臨んだ。

チャンピオンになるためにはこのレースに勝たなければならなかったセナとディック・ベネッツ(ウエスト・サリー・レーシング代表)は、スタート直後の数周がすべての鍵を握ると考えた。そこで、油温が上がるまで通常5〜6周必要とすることを考慮して、ラジエターをテープでふさいで即座にパワーを引き出すという策を練った。いったん油温が上がったら、セナが手を伸ばしてテープを剥がすというアクロバットを演じなければならず、セナは、テスト中にシートベルトを緩めてテープを剥がす練習を重ねた。

スタートを見事に決めたセナは後方との差を広げると、手を伸ばしてテープを剥がした。シートベルトを締め直すまでの間コクピットの中でポジションは定まらなかったが、左右に切り返すシケインへのブレーキングもこなし、独走態勢を築く。 ブランドルはこの離れ業を目撃していた。「彼がテープを剥がしたとき、後ろを走っていた。ストレートで動いているのが見えて、どうしたんだろうと思ったよ。彼は身を乗り出して、全開で走りながらテープを剥がしたんだ。まったく信じられないよ」


イギリスF3最終戦でレース後に握手を交わすセナとブランドル。ロータス・ルノー97Tを駆ってわずか2戦目にして、セナはウェットコンディションでの力量を証明し、エストリルでグランプリ初優勝を遂げた

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