伝説は人の手で繰り返される│"英国最速の車" DB4GT復刻版ができるまで

約2年前、アストンマーティンが"英国最速"ともいわれたDB4GTの復刻モデルを完成させたことはまだ記憶にあるだろうか。2018年12月にはEV化した1970年 DB6 Mkll Volanteが発表され、ヘリテージモデルの継承に力を入れている同ブランド。ここで、DB4GTは情熱と共にどのように復刻されたのか、改めてご紹介しよう。

アストンマーティンのニューポート・パグネル工場を訪ねて、DB4GTが完成形に至るまでを追った。今日のアストンマーティン・ワークスでは、想像している以上に1959年当時と同様の作業が行われている。シャシーはニューポート・パグネルではなく、デイビッド・ブラウンのハダースフィールド工場で製造されている。今回のプロジェクトでアストンマーティンは、既に存在しているコーチビルダーをあたってみたが、求めるスタンダードクオリティを持っているところが無かったのだ。そこで、オリジナルのシャシーを分解し、3Dプリンタを用いて新たに製造。オリジナルと同じタイプのスチールに、現代のコーティング技術を採用し、すべての寸法に狂いの無いパーツを作り出すことに成功した。

現代の進化した技術のおかげで、スーパーレッジェーラのパーツもこれからの耐久性を含めて再構築されパワーアップした形で再現されている。サスペンションキットはオリジナル同様のデザインであるが、少し改良が加えられ、よりサーキット走行に向いているものが作られた。新しく製造しているコンティニュエーションモデルは、サーキットで走行することを前提にされているため、8台のみ製造されたDB4GT ライトウェイトの設計を忠実に再現しているのだ。スチールパネルには薄く延ばされたアルミニウムシートが組み込まれている。



ボディの製造はこのプロジェクトにおいて最も大きな課題であった。パネルを作るのにあたり、充分な経験を持っている人物が少ないかったのだ。だからこそ、より正確なボディシェイプの枠組みを作ることが大事だと考え、"ベストの中のベスト"を尽くして、"ベストの中のベスト"の車を作りあげることに力を注いだ。

4台のオリジナルDB4GTを3Dスキャンした。なぜ4台なのだろうか?言うまでもないが、すべての車はそれぞれの"歴史"を持っている。どれもオリジナルだとしても、1つ1つ人間の手によって生み出されたボディは少しずつ異なっているのだ。スキャンして製造されたボディパーツは、オリジナルが製造されていた地でるニューポート・パグネルの工場に送られ、シャシーが組立てられる。DB4GTコンティニュエーションプロジェクトメンバーの中には、ヴァンキッシュの組立てラインにいた人物もいる。ボディの組立てとペイントに関しても昔と同様に人の手でおこなわれる。



ブレーキはオリジナルと同じ、コンペティションタイプディスクブレーキとキャリパーを備える。デイビッド・ブラウンのギアボックスはサーキット向けになるように、改良されている。

エンジンには現代技術を取り込んで、アストンマーティン・テクニカルパートナーによって製造されたものだ。このエンジンはダイノテストを行ったときから完璧だった。



トラックテストスタイルのインテリアには、ラバーマットとレザーのドアパネルが採用されている。インテリアで最も現代を感じる要素は、ダイアモンドキルトが施されたFIA基準のレースバケットシートだ。

25台限定でこのDB4GTコンティニュエーションモデルを販売することに対して、神経質な意見もあっただろう。しかし、プロジェクトの代表を務めるポール・スパイアスは自身を持っている。150万ポンドの値がつけられた25台の車は1週間で完売し、ウェイティングリストさえあるというのだ。

最初の1台を完成させたチームは若いメンバーの集まりで、スパイアスは誇りを感じている。また、このプロジェクトを進めているにあたり、アストンマーティンをのヘリテージを大切に想う様々な人々との関りが出来たのだ。1961年のGTを所有していたオーナーが製造過程で材料になれば、と自身の車をアストンマーティンに寄付するということも起こった。オリジナルパーツのサプライヤーは活気を取り戻し、新しいパーツのサプライヤーの協力も得たうえで遂行できたプロジェクトであった。

"スクラッチされた状態から新しい車を造ることは特に難しいことではない。"とスパイアスははっきりと述べているが、伝説の1台をまた最初から製造することが簡単だなんて一体誰が思うであろうか?

Words: Stephen Archer

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