ツール・ド・フランスの愛称で呼ばれる名レースカー|フェラーリ250GTbベルリネッタ

フェラーリ250ベルリネッタ"ツール・ド・フランス"



レッドゾーンは7000rpm
TdFはロンドン市街地のガレージで安全に保管されていた。その形は、カバーに覆われている状態でも見間違えようがない。私は自転車で、マックスはスクーターで到着。私の提案で、まずマックスの運転で車を温め、ロンドンを抜けて高速道路でグッドウッド・サーキットへ向かうことになった。さっそくマックスが運転席に飛び乗って2953ccのV12エンジンに火を入れる。数回トライしてツインチョーク・ウェーバー3基に燃料が回ると間もなく落ち着いた。

苦労して助手席にもぐり込んでみると、低い位置にあるバケットシートは居心地が良く、体にぴったりだった。ただ、現代のレーシングハーネスを締めるのはやっかいだった。実に機能的で洗練されたコクピットだ。ドライバーの目の前はヴェリア製のメーターのみが位置し、トランスミッショントンネル中央からは、極端に大きなノブのついた、フェラーリらしいシフトレバーが誇らしげに突き出ている。ギアは4段しかない。マックスは、温まりつつあるV12から何度か破裂音を響かせながら、TdFをゆっくり道路へ乗り入れた。乗り心地は予想通りレーシングカーらしい堅さで、路面がひび割れていると派手な音を立てる。

エンジンもダンロップのレーシングタイヤもすっかり温まり、都会のジャングルから抜け出したので、今度は私が運転席についた。ナルディ製ステアリングホイールは巨大で直立しており、細身のウッドリムはつやつやと滑らかだ。クラッチは思いのほか軽い。正確に1速に入れ、軽くスロットルペダルを踏んで回転を上げるとTdFは動き始めた。1速のギア比はハイギアードの設定だ。

アルミパネルのボディとアクリルガラスの効果によってTdFの重量はわずか1050kgに抑えられているが、その軽さはすぐに実感できる。ダンロップの6.00-16レーシングタイヤを履き、硬めのセットアップのため、常に落ち着かず小刻みに進路を変えるが、ステアリングに軽く手を添えるようにし、あとは車に任せればいい。ちょっと困るのが垂直に取り付けられたステアリングで、かなり遊びが多いので注意する必要がある(少し調整すればすぐ直るだろう)。だが、マックスによれば、サーキットではコーナー入り口でステアリングが重くなるので、たいした問題ではないという。彼の場合、とにかくいっぱいまで切って、テールがぞっとするような角度で流れるのを楽しんだそうだ。

高速道路ではローギアードの設定を痛感する。エンジンは 75mph(82km/h)でも4000rpmでやかましく回り続けているのだ。しかし、レブカウターを見ればレッドラインまではさらに3000rpmある。やはりフェラーリ、回してこそ真価を発揮するのだ。これに対して田舎道に来ると、エンジンがより豊かに歌い始めた。これぞTdFの本領発揮、きびきびとした速さを見せる。このV12エンジンはまさしく傑作だ。ただし、ドラムブレーキはストロークが長いペダルを力一杯踏みつける必要がある。

「TdFに乗ってグッドウッドでレースするのは素晴らしい経験だ。とにかく回さなきゃならない。でもホイールベースがこれだけ長いから、挙動は読みやすい。テールは流れるが、前兆を感じ取れるんだ。まあ、優勝確実のレースで最終周にスピンしたけれど。実に楽しかったよ。観客にちょっとした山場を提供できたからね……」そう言ってマックスは笑った。

私も観客のひとりだったが、TdFを激しくテールスライドさせて攻めるマックスをみんなが応援していた。そんな中、最後もシケインを横様に滑って抜けると、轟音を上げてメインストレートを駆け抜けたのだ。



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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA

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