ピンクフロイドのニック・メイソンの名車フェラーリ250GTがレースカーとして復活するまで

フェラーリ250GTO

舞台は2010年のグッドウッド・リバイバル。ピンクフロイドのドラマーでエンスージアストとしても知られるニック・メイソンがフェラーリ250GTOをRAC TT記念レースにエントリーさせた。ドライバーは今やF1解説者としておなじみの元F1ドライバーで1990年ル・マン優勝者のマーティン・ブランドルだ。コドライバーを務めたマーク・ヘイルズが、この一部始終を語る

陸と空のリバイバル
250GTOのステアリングを握るマーティン・ブラン ドルがマジウィックを抜けてフォードウォーターへ向かっているとき、ちょうど着陸態勢に入ったスピットファイア(陸のGTOと双璧を成す空のスターだ)が頭上をかすめた。その時、彼はグッドウッドでGTOに乗っていることを実感したという。この言葉がリバイバルの魅力を物語っている。テレビに出続けているとシニカルになる者もいる中で、ブランドルがアマチュアのレースに対してこんなに情熱を抱いていることを知り、私は嬉しくてたまらなくなった。

ニックの決断
2010年のグッドウッド・リバイバルがちょうどF1のない週末に当たったとはいえ、マークと一緒に参加できたのは奇遇だった。わずか1カ月前までは私も参加する予定はなかったのだ。今やリバイバルはすっかり有名なイベントとなり、皆、この週末のためだけに車を用意して参加してくる。そのためシートが空くことは滅多になく、たとえ空いても、グッドウッド・リバイバルで走りたくてヘルメットとレーシングスーツを用意して待っている有名人は何人もいるのだ。幸運にも私は毎年、出場させてもらっている。

今年は、何とも嬉しいことに、ニック・メイソンが自分のフェラーリ250GTOをエントリーすると決めてくれた。ニックが所有する名車の数々を紹介する新作、私も筆を執った『Passion forSpeed』がリバイバルでお披露目されることになったからだ。この本では250GTOが重要な位置を占めていたので、まさに好都合だ。だが、ニックはサイン会を口実に、今や2000万ポンド(約34億円)以上という貴重な車を私と一緒に走らせるのは「恐ろしいことになりかねない」ので遠慮するという。

私が前年に組んだのはマリノ・フランキッティだった。インディカーチャンピオンのダリオの弟で、ニックの娘婿でもある。だが、マリノはアメリカン・ル・マン・シリーズとスケジュールが重なり、この年は参加できなくなった。次の候補はレッドブルF1チームのマーク・ウェバーだ。きっとほかの予定があるだろうと思いつつメールで打診してみたところ、マークは提案に感謝しつつも、チム代表のクリスチャン・ホナが、万一の事故を心配してカートレースにすら首を縦に振らないと辞してきた。ホーナー自身もデザイナーのエイドリアン・ニューウェイもグッドウッドで走る予定だったから、この二人は替えがきくということだろう。

そこでマーティン・ブランドルに電話した。しばらく会っていなかったので、テレビに出ているうちに『トップギア』の、"あの司会者"のようになってしまったかもしれないと危惧していたが、マーティンは自信にあふれていながらも相変わらず謙虚でチャーミングだった。F1の予定がなく家で過ごせる貴重な週末を心待ちにしていたとはいえ、250GTOは一度も運転したことがないという。このチャンスに車好きの血が騒がないはずはない。こうして、あとはレースに向けて大急ぎで車を準備することになった。

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