フェラーリ330GTS|ピニンファリーナが手掛けた隠れた逸材はヒストリーブックの表紙を飾るか?

 Photography: Paul Harmer

ピニンファリーナが手掛けた流麗なスパイダーボディを持つ330GTSそれには1960年代のフェラーリの魅力がすべて詰め込まれている
 
静寂の中でフェラーリV12エンジンのサウンドが響き渡る。このサウンドがピニンファリーナの美しいフォルムを包むとき、人生でこんなに興奮することがあるだろうかと思った。

330GTSは数あるフェラーリの中にあって、高い人気に支えられてきたわけではない。この車自体に何か問題があるのではなく、目立つモデルの陰に隠れてしまい、長い間人々の目に留まることがなかったというべきだろう。しかし時を経て、いまや7桁の価格を誇るフェラーリの仲間入りをしている。一度、乗ってみれば、この車が注目を浴びるまでになぜこれほどまでに時間がかかったのか、不思議に思うに違いない。

330シリーズは、フェラーリの1960年代を飾る人気モデルの結集だ。スーパースポーツの275GTBと、ラクシュアリーな330GT 2+2の中間に位置する330GTCクーペがデビューしたのは、1966年のジュネーヴ・ショーであった。まず、クーペが登場し、後にクーペのルーフを取り去ったかのようなスパイダーが派生することになる。

その成り立ちを見ると、275シリーズから2400mmのショートホイールベースシャシーを、275GTBから独立式のリアサスペンションを流用したことがわかる。エレガントなボディはカロッツェリア・ピニンファリーナのアルド・プロヴァローネの手になるもので、フロント部分の意匠は500スーパーファストから、リア部分は275GTSから引き継いでいる。

この3967ccエンジンの公表出力は300bhpを謳うが、1960年代は出力を誇張して発表する傾向にあったことを考えると、これはNet出力、もしくは希望的観測といえよう。だが、それは些細なことで、ティーポ209/66エンジンが素晴らしいものであることに変わりはない。シリンダーブロックとヘッド、クランクケースは軽合金ダイキャスト製で、ブロックには鋳鉄ライナーを挿入している。7個のメインベアリングに支えられるクランクシャフトは、鋼塊から切削加工によって製作されている。各バンクにつき1本のカムシャフトはチェーン駆動で、3基のウェバー製ツインチョーク・ダウンドラフトキャブレターは60゜のVバンク内に備わっている。圧縮比は8.8:1で、5000rpm時に40kgmの最大トルクを発揮した。

エンジンとトランスアクスルは275GTBと同様にトルクチューブで連結されている。サスペンションはダブルウィッシュボーン/コイル式で、コニ製のテレスコピックダンパーと、スタビライザーを備え、ウォーム・ローラー式ステアリング・システムを採用した。ブレーキはサーボ付き4輪ディスクである。

シャシーはラダー/ペリメーターフレーム上にマルチチューブラー構造の上屋を溶接し、これにスチール製ボディパネルを接合して高い剛性を確保している。車重は1300kgと軽量で、最高速度は243km/hに達し、 0-100km/hは6.5秒、SS1/4マイル14秒台を記録した。メディアはこの高性能でエレガントなクーペに飛びついた。元フェラーリのワークス・ドライバーでル・マン優勝者でもあるジャーナリストのポール・フレールは、1966年11月の『The Motor』誌にこう記している。

「330GTCはこれまでに乗ってきたフェラーリと同じように、操作性が素晴らしい。だがこれが特に素晴らしいのは、方向を変えるときの挙動で、特にS字カーブで発揮するその安定性だ。モダンレースカーと同等の正確さで走ることができる…」と賛辞を贈っている。

スパイダーボディの誕生
330GTCのオープンカー仕様を望むアメリカ市場からの声に応えて、パリ・サロンで発表したのが330GTSだ。機構面はGTCと変わらないが、オープンボディ化に伴うシャシーの強化を図ったことで、車重は1408kgに増加。最高速度も235km/hに低下した。

だが、依然として高性能であることには変わりはなく、クーペにはない開放感を得たことで、GTSは.楽しい人々、楽しい場所にふさわしい、楽しい車.として高評価を得た。特にアメリカ市場では好評で、1968年8月号の『Road & Track』誌はこう評価している。

「330GTSはラクシュアリーカーでありながら、生粋のフェラーリ・スポーツカーである。275GTSよりさらに進化し、一度運転すればなんでもできそうな気がする。ステアリングはパワーアシストがなくても充分に軽く、反応が特にクイックなわけではないが正確だ。単に素晴らしくエキサイティングなロードスターというだけじゃない。快適で(あまり大きなサイズの人でなければだが)スーパーマーケットに買い物に行くにも問題ない。1万5000ドルという価格を正当化するのは困難であるが、それだけの値打ちがある」

1968年までの販売台数は、GTCがおよそ600台、GTSが100台であった。GTSのイギリスでの価格はジャガーEタイプのおよそ3台分であり、イギリス向けに生産されたのは僅か4台だと言われている。



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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Richard Heseltine

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