フェラーリ330GTS|ピニンファリーナが手掛けた隠れた逸材はヒストリーブックの表紙を飾るか?

 Photography: Paul Harmer



On the road
セラストブルーに輝く写真の 1967年製GTS(シャシーナンバー:11011)は、ポール・デ・トゥリスと彼のチームであるDTRヨーロピアン・スポーツカーズによってレストアされた。オーナーのマーク・クーパーはレストアが終わると、オーストラリアの2012年エンスタール・クラシック・ヒストリック・ラリー、英国ノーザンプトンのボートンハウスで開催されるフェラーリ・オーナーズクラブ・コンクール・デレガンスなど約8000マイルを走り、アメリカに売却した。

330GTSのスタイリングはシンプルで、艶やかなボディがより一層上品さを際たせている。ロングノーズ、口を開けたかのようなラジエターグリル、牙のようなクォーターバンパーが存在感を添える。ルーフを上げてもその美しさは変わらない。ルーフは2個のクランプを外すだけで簡単に折りたたむことができ、実に簡単だ。それは同じピニンファリーナのフィアット124スパイダーの方式とほぼ同じだ。

車内はそれほど豪華というわけではない。むしろシンプルで、インストルメントのレイアウトは至ってロジカルだ。ナルディ製ウッドリム・ステアリングホイール、その奥のインストルメントナセルにはべリア製のスピードメーターとレヴカウンターが収まっている。ダッシュパネル中央に並ぶメーターは少し見にくいがスパイダーに乗り込む瞬間、期待で胸が躍る。

キーを回すとカチカチという音がし、続いて轟音が響き渡る。一刻も早くスロットルペダルを踏みたい衝動に駆られる。シフトレバーはこの当時のフェラーリに多く使用された1速が左下に飛び出したドッグレッグパターンだ。シングルプレートのクラッチを踏み、1速ギアを入れ、スロットルを踏み込むとエンジンは即座に反応した。2速にシフトアップ。トランスミッションのオイルがまだ充分に暖まっていないのに加え、トランスアクスルのためにシフトリンケージは長く、僅かなタイムラグを感じる。速度を上げ、回転を上げていくとためらいはなくなり、2速から3速へはすんなりと入る。

この時期のフェラーリはポルシェタイプ・シンクロナイザーを使用しているため、ゲート周りには硬質な抵抗はほとんどない。エンジンスピードと等速で回転するプロペラシャフトのマスがあるにもかかわらず、3速から4速へチェンジは驚くほど速い。慣れるまでは多少と戸惑うものの、感覚を掴むまでにさほど時間はかからない。

なにより驚くのはその切れのいい走りだ。前任モデルだった250GTシリーズのロードーカーよりもはるかに洗練されている。決して速いわけではないが、ステアリング特性もほどよく、起伏のある道路を走っても特に跳ねたりすることはなく、極めて安定した走行を披露する。当時はあまり良好な評価を受けなかったブレーキも、1960年代の車であることを考えれば正確で、フェードも起こさなかった。操作性に関してはランボルギーニ350/400GTには一歩及ばないと思うが、充分に楽しめよう。感心したのはオープンボディにもかかわらず高い剛性感で、スカットルシェイクもない。

この車には愛すべきものがたくさん詰まっている。330GTSのサウンドは、多くのモダンフェラーリよりもはるかに素晴らしい。エキサイティングで病み付きになるV12エンジンの咆哮はリミットの7000rpmまで上げると、さらに高まり、叫びと化す。さらに330GTSの近くを走る人々からの羨望の眼差しを浴びるのは実に気分がいい。近年の高級車でも、これほど注目を浴びることはないだろう。

330GTSがフェラーリのヒストリーブックの表紙を飾ることはまだ先かもしれない。だが250GTルッソの評価が高まるまでにかかった年月を考えてみてほしい。330GTSにもその時は来ることだろうと、私は確信した。


1967年フェラーリ330GTS
エンジン:3967cc V12、SOHC、ウェバー製 40DFIダウンドラフトキャブレター×3基 
最高出力:300bhp/6600rpm 最大トルク:40kgm/5000rpm

変速機:前進5段+後退、MT、後輪駆動 ステアリング:ウォーム・ローラー 
サスペンション(フロント/リア):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー 
制動装置:ダンロップ製ディスクブレーキ、サーボアシスト付き 車重:1408kg 性能:最高速度 235km/h


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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Richard Heseltine

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