ジャガーの新しい出発点 "カー・ゼロ"|新型ライトウェイトへの挑戦

Photography: John Wycherley, Nick Dimbleby



"カー・ゼロ"プロジェクトがスタートしてから半年後、完成した車はペブルビーチのコンクールデレガンスに展示されることになった。ワークショップに静かにうずくまっている個体は6色のヘリテージカラーのひとつであるリキッドシルバーに塗られ、浜辺のゴルフ場で行われるヒストリックカーの祭典にはぴったりだと思われた。だが、これはジャガーの他のプロトタイプやショーモデルと同じ最新の工場で製作され、それらと同じ基準を持ったまったくの新車だ。また、他のほとんどのショーモデルと異なって実際に走るし、しかもプロジェクトリーダーのマーティン・ホリングスワースの言葉によれば「よく走る」というわけだ。Eタイプのシリーズ1、4.2FHCを40年間も所有している彼の言葉には重みがある。

マーティンは"カー・ゼロ"チームのヘッドとして会社に戻る気があるかと打診を受けた。その直前に、マーティンはエンジニアリングテクニカルサーヴィスのダイレクターとして世界中の試験施設を担当した後、彼の一生を捧げたジャガーを退職したところだった。

「イエスと言う前にたっぷり"ナノ秒間"は考えたな」とニヤッと笑い、「始めは週に3日働くといったが、最近じゃあ、6日以下ってことは先ずないな」という。実際の"カー・ゼロ"の作業は、ジャガーの試作車部門のチーフビルドエンジニア、ケヴ・ブリッジが率いるチームが行った。ケヴは4.2リッター2+2のオーナーでもあり、その事は完成した車に少なからず反映されている。チームは非常に小さく、つまり"カー・ゼロ"の社内作業の大部分は、完全にゼロから構築するというより、むしろ各チームへの指示系統をまとめるアッセンブル仕事だったということになる。また非常にタイトなデッドラインという条件のもと、"カー・ゼロ"のボディシェルとボンネットの製作は、スペシャリストであるRSパネルズ社へ下請けに出された。

こうした作業にはチームのモチベーションが非常に重要だ。「我々がいる場所から100メートルほどの所にコンペティション部門があるってことが、気分を高揚させるのさ」とマーティンはいう。

自動車メーカーは、往々にして外部のサプライヤーからの援助を認めることに本質的な嫌悪感があるもので、特にクラシックカーが関係するところでは、愛好家は必ずしも新参者に優しいとばかりはいえない場合が多い。だが、ジャガーは"カー・ゼロ"プロジェクトに参加したRSパネルズ社やクロスウェイト&ガーディナーの存在を公表し、きめられた時間内で必要とされる結果を得るために、彼等の専門知識に頼ったことを明らかにした。これらの会社は経験という財産を持っている。RSパネルズ社は50年前に設立され、オリジナルライトウェイトが新車で販売されていた頃、そのボディ修理などを行っていた。彼らの家族経営会社は11台現存しているオリジナルライトウェイトの内の8、9台については実際に作業しているはずだ。これらの貴重な経験に基づく知識というものは、一朝一夕で得られるものではない。

そしてそうなると、ジャガー純正のライトウェイトの新車と、外部のスペシャリストが造ったそれには、どんな差があるのだろうか、目の玉が飛び出すようなプライスタグをどのようにして正当化させるのだろうかという疑問が湧く。主な違いはもちろん、実際のプロダクションモデルがジャガーの旧本社工場であるブラウンズレーン工場で作られるということに尽きる。だが、ジャガーとしてはさらに、近年頻繁に使われるようになったアルミニウム素材を、スポーツカーのみならず高級サルーン、大型4駆などへ使い、豊富な経験を持つ自社のエンジニアリング部門が今回のライトウェイト製作に関与していることをアピールしたい考えだ。最新の高強度のアルミ素材と最新の接着技術を導入するなどして、ライトウェイトに現代の技術をフルに導入することは可能だっただろう。しかし、幸いにもそのような危険な考えは一蹴された。こういうアプローチはオリジナルカーの精神に反するばかりでなく、FIA規定のヒストリックレースに出場する事を不可能にしてしまっただろうからだ。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA  Words: Mark Dixon 

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