ジャガーの新しい出発点 "カー・ゼロ"|新型ライトウェイトへの挑戦

"カー・ゼロ"



スペシャルXKユニット
自動車の最も重要な要素、それはエンジンである。ライトウェイトのストレートシックス・エンジンは1948年に登場し1990年代まで延々と生産が継続された名エンジン、ジャガーXKユニットをベースとしてはいるが、通常のEタイプのエンジンとは少し異なる。元々はDタイプ用に設計されたもので、ブロックは鋳鉄ではなくアルミ鋳造、ビッグバルブの広角シリンダーヘッドを備える。コーナリング時のオイルの偏りを抑え、オイルを増量するドライサンプ潤滑を持つ。このドライサンプゆえに今回の6台はオリジナル通りすべて右ハンドルとなる。なぜなら、そのドライサンプシステムは左ハンドル車のステアリングコラムの位置にあるからだ。さらに興味深いものでは、キャブレターの位置に取り付けられたルーカスの機械式燃料噴射だ。残念そうに微笑んで、マーティン・ホリングスワースはこういう。

「正直なところ、私はシンプルなキャブレターを選びたかった。"カー・ゼロ"のエンジンを組む際に、すでにクロスウェイト&ガーディナー社の在庫のルーカス・システムが用意されていたんだ。もちろん顧客はインジェクションか45DCO3のトリプル・ウェバーかをチョイスできる。出力は約340bhpで、どちらもあまり差はない。だが是非ともいっておきたいのは、ドイツのビルスターベルグサーキットで3日間撮影を行った際、インジェクション仕様の"カー・ゼロ"はまったくの新車だったが走りは完璧だった。こつは2ストローク・オイルを1%、燃料に混ぜることさ。

ライトウェイトのボディはプロトタイプのみが"カー・ゼロ"としてRSパネルズ社が製作し、本生産はジャガー社が行うが、エンジンはすべてクロスウェイト&ガーディナーが供給する。同社は、アウディのために1997年のグッドウッドに登場したアウトウニオンPワーゲンを復元したことで有名だが、その他にもコヴェントリークライマックスの最初のレース用エンジンFPFやFW、マセラティ・バードケージとA6GCS、そしてもちろんジャガーDタイプ、 Eタイプ用のジャガーXKユニットを含む幾多のエンジンを復元している。アルミブロックのストレートシックスに組み合わせるのは、ジャガー製4速フルシンクロトランスミッションだ。歴史的には、ZF製の5速が組まれたこともあったが、今やXKエンジンのトルクに適合するパーツを探すのは困難だ。それ以外のドライブトレインとしては、低慣性軽量フライホイール、単板クラッチ、"Powr-Lok製"のリミテッドスリップデフ。ホモロゲーションのための最終減速比はオーナーの選択となる。標準は3.31:1。ホイールはダンロップのマグネシウム・ディスクで、前輪は7インチ幅、後輪は8インチ幅のもので、ダンロップ製CR65レーシングタイヤを履く。

"カー・ゼロ"は予定通り、2014年ペブルビーチへの準備を完了し、動画撮影のための中速度走行ではすでに145マイル(233km)を走っていた。撮影時、事故についてはあまり心配していなかったが、ペイントを削る跳ね石には凍りついたとはマーティンの弁だ。サスペンションは工場で組んだままで調整もなし。エンジンもストックのまま。走りはするもののそれ以上ではない。カリフォルニアで走る予定はなかったので、3週間後にファクトリーに戻った際、ダンパーレートの手直しと、サスペンションのジオメトリー調整が行われた。実際上、プロダクションモデルのオーナーが真っ先に行うのは、車をレースプリパレーションの専門家に送り、個々のドライビングスタイルや技術に合わせたセッティングを依頼することだ。だから、ジャガーでのセッティングは出庫時だけということになる。たとえそれが経験豊かなビークルインテグリティのチーフエンジニア、マイク・クロスが決定したものだとしてもだ。マイクはすでに"カー・ゼロ"をドライブし、ステアリングレスポンスのよさ、ブレーキとスロットルの反応、ファンタスティックな排気音に満足していた。

フューチャーヘリテージ
20年、いや、おそらくわずか10年前でもジャガーが新型のライトウェイトのような大きなビジネス上の賭けに挑むことは、資金面ひとつを取っても、認められはしなかっただろう。これについては現オーナーであるタタ社社長と、数百万人におよぶ中国人民の顧客に感謝しなければならない。

これはスタートに過ぎない。オクタンがブラウンズレーンのヘリテージ部門で"カー・ゼロ"を取材した時、そこには他に見るべきものは何もなかった。ワークショップは、それ以前は他の様々な作業と同時にプレスカーの整備に使われていて、まだ今回の新規事業用に切り替えられていなかったからだが、しかし、それはもうすぐ一変するはずだとマーティン・ホリングスワースは説明する。ヘリテージ部門の作業ベイは、ただ作業効率がよいというだけの味気ない場所ではなく、実際に歴史のある工場がその記憶をとどめるよう注意深くレストアされたものでなくてはならないからだ。ワークショップは、間もなくサービスとレストレーションのために顧客の車の受け入れを開始するだろう。そしてまた、そこは訪れることがずっと楽しい場所になるはずだ。特に、ジャガーとしてはまだ準備はできてはいないものの、さらに稀少な、まためずらしいクラシックモデルの復刻などがありそうに思える。新車のXKSSや、新車のXJ13を所有したくないと思う者などいるだろうか。そんな、未来の幸せな可能性に期待したい。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA  Words: Mark Dixon Photography: John Wycherley, Nick Dimbleby

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