名匠ジオット・ビッザリーニによる、もうひとつの"250GTO"|イソ・グリフォA3/C

イソ・グリフォA3/C

伝説のフェラーリ250GTO製作の一躍を担ったジオット・ビッザリーニ。しかしそのときすでに彼の心はイソ・グリフォに向いていた。ここではロバート・コウチャーが1965年のル・マンを走った一台をトラックテストする。

グッドウッドに爆音を響かせて
ポップアーティストのロイ・リヒテンシュタインには申し訳ないが、イソ・グリフォA3/Cの5.3L V8エンジンが始動するときの雄叫びを的確に表わそうとしたら、彼の有名な作品"バーン!"という言葉以外にないだろう。手順はこうだ。まず、赤いカバーの下に隠れたイグニッションスイッチを入れ、次にスターターボタンを押す。すると大柄な赤いレーサーは"バーン!"という音をたてて、私の体の下で躍動を始めるのだ。これはどえらいものに乗ってしまった。

グリフォのインテリアは黒いビニールが全体を包み込むような感じで、コクピットは驚くほど窮屈だ。車のスタイリングは曲線的な美しさを感じさせるものの、見方を変えれば鳥が獲物に飛びかかるような獰猛なイメージを見る人に与える。シートは直立気味で、前方からせり出した格好の巨大なトランスミッションが室内のかなりの空間を占めている。ロールケージで完全装備したその車で今日、グッドウッド・サーキットを走らせることができるのだ。狭いとはいっても、レーシングヘルメットを被った状態でヘッドルームにはまだ余裕がある。その一方で、体は自由がきかない。ノーメックスのレーシングスーツで動きを制限された上に、ウィランズの幅広なシートベルトで締め上げられているからだ。

A3/Cの爆音を聞いて明らかに不快そうなチーフマーシャルだったが、渋々と親指を上げて2、3周の周回許可を出してくれた。ここグッドウッドは騒音規制がやたらと厳しいのだ。出走前に各部を点検する。切れ味が鋭そうなレース用クラッチは予想したほど重くはない。美しいウッドリムのステアリングホイールは中心部分にビッザリーニ生誕の地リヴォルノをあしらった十字のエンブレムが付いている。大きく太ったギアレバーを持つボーグ・ウォーナーのT10型変速機は、ギア選択時にゴツンと音をたてるが作動はしっかりしていそうだ。前進ギアは4段しかないが、豊かなトルクを生むシボレー・コーヴェットの大排気量エンジンには必要にして充分そうである。

いよいよスタートのときが来た。このビッザリーニは発進時にある程度の回転を保ちながら素早くクラッチをつなぐ必要がある。最初に発するのはデトロイト製エンジンらしいにぎやかな"チャガチャガ"サウンドだ。ギア音はノイジーで、ヘビメタかと思わせるガチャガチャした音である。

このシャシーナンバー0222のA3/Cは、1965年のル・マン24時間でレジ・フレシネとバロン・ジャン・デ・モルテマートのドライブにより総合9位、クラス1位の成績を残したワークスカーである。もっと博をつけるならば、オーストリアGP(当時はスポーツカーによるレースだった)でクリス・エイモンが4位に入賞させた経歴もあり、そのあとニュルブルクリンク1000kmやランス12時間も走ったことがある。4本のメガフォン状のエグゾーストパイプは空想上の生き物のような形状を成し、それが放つ、深くて喉の奥のほうから絞り出すようなエンジンサウンドは爆発的だ。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Robert Coucher Photography:Gus Gregory

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