デ・トマゾ・マングスタ|その名に込められた宿敵の存在とは?

Photography:Jamie Lipman



アクセラレーターを踏み込むとテールが大きく沈み込み、急にステアリングが軽くなった。クロースレシオに設定されたギアボックスを操作しながら速度を上げていく。前輪への荷重は極めて少なく、ステアリングでコントロールできることがごく限られていることが想像される。そこでアクセラレーターを戻すと、ステアリング・フィールは少し改善されたが、直進付近の応答性はステアリング・ギア比が低いために鈍い。セルフセンタリングも極端に弱く、キャスターが5度もあるとはにわかには信じがたかった。それでもステアリングが驚くほど正確なのは、サスペンションからゴムブッシュを取り除いた恩恵だろう。

そのせいで、低い速度でバンプを乗り越えるとソリッドなジョイントからはキーキーという音が響いたが、もしかしたらボディ構造自体がきしんでいたのかもしれない。ハードブレーキングを試みるとタイヤがいとも簡単にロックし、フロントからスキール音が聞こえた。きっと、タイヤが新品だからだ。それでも、恐怖心をしまった金庫の鍵はもはや完全に解錠され、扉が少し開き始めていた。

再びシフトアップ。5速では 1000rpmあたり22mph(約35km/h)に相当することが確認できた。試乗したアメリカ仕様のマングスタは0 -60mph(約96km/h)加速に7秒を要し、最高速度は118mph(約 190km /h)に留まる。これは、4800rpmで最高出力を発揮するエンジンの特性に起因するものだ。ちなみにヨーロッパ仕様のマングスタであれば、最高速度は150mph(約240km/h)に達し、 0-60mph加速は5秒で走り抜ける。

蛮勇を振り絞り、高い速度でのコーナリングに挑む。しかし、ステアリングの重さは車速とは無関係で、実に心許ない。おそらく、そうとは気づかずにステアリングを切りすぎ、無用なアンダーステアを招いてしまうタイプだ。

そこでステアリングはあまり切らず、アクセラレーターを深く踏み込んでコーナーにアプローチした。即座にテールが流れ始めたが、ステアリングにはその情報がまったく伝わってこない。もしもさらにスピードを上げたなら、マングスタは簡単にスピンモードに陥っただろう。なにしろ、これほど遅いステアリング・ギア比では、カウンターステアが間に合うはずがない。いまや、心の金庫は完全に扉が開き、なかに仕舞っておいた恐怖心が私を支配し始めていた。マングスタは簡単には心を許してくれない。扱いにくいとの評判に、まったく偽りはなかったのだ。

スロットル系とシフトリンケージに適切な注油を施せばより滑らかに作動し、新車当時に近いフィーリングが蘇るかもしれない。とはいえ、ステアリングからの情報が不足していることには変わりないはず。それでも、マングスタは芸術作品として素晴らしい価値を有している。そのことはデ・トマゾ自身も認識していたらしく、1971年には後継モデルのパンテーラがデビューした。ボディ剛性が高いパンテーラはハンドリングも良好だったが、テントウ虫を思わせるエンジンカバーを備えていないこともまた事実である。

謝辞:このマングスタをオークションに出展した"ヒストリックス・アット・ブルックランズ"、そしてその売り主である"クラシック・オートモビル・オブ・ワンズワース"に謝意を表す。


マングスタは、エンジンカバーを開けて後方から眺めるのが、もっとも印象的。実にドラマチックだ。インテリアもドラマチック。ただし、「ビジュアル的に」という意味ではない

1969デ・トマゾ・マングスタ
エンジン:4949cc V8 OHV 4チョーク・ホーリー・キャブレター
最高出力:230bhp/4800rpm 最大トルク:310lb-ft/2800rpm
ギアボックス:ZF製マニュアル5段トランスアクスル
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):アッパー&ロワーリンク、ラジアスアーム、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ステアリング:ラック&ピニオン ブレーキ:ディスク 車重:1383kg
性能:最高速度190km/h(US仕様車)、060mph 7.0秒

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編集翻訳:大谷 達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:John Simister 

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