言い尽くせない魅力がそこにある。|フェラーリ275GTBコンペティツィオーネ

疾走する275GTB/C。Cはコンペティツィオーネの意味。美しいサイドビューにスクーデリア・フィリピネッティの文字が映える広いキャビンは仕立ても素晴らしい。細いAピラーと広いグラスエリアのおかげで視界も良好だ

レースは神話を生むと人はいう。ここに登場するフェラーリ275GTBコンペティツィオーネもル・マン24時間、スパ1000km、イモラ500kmに出場し、名声を得た一台。過去に乗った275と比較しながら、ウィンストン・グッドフェローがその姿を浮き彫りにする。

言い尽くせない275の魅力
あなたの携帯電話にこんな電話がかかってきたとしたら、自分はいま幸せなときを過ごしていると思うべきだ。「ちょっとスピードが出過ぎているね。エンジン音も限界を超えているんじゃないか」カリフォルニア、ラグナセカ・サーキットのヘアピンでエンジンの回転が下がったとき、ようやく注意を促す声が聞こえた。私はいま、1967年のル・マン24時間を走った275GTB/Cをドライブし、伝説的なこのサーキットを走っている。コンペティション仕様のV型12気筒エンジンがタコメーターの針をとんでもないところまで駆けめぐらせる様は喜び以外の何物でもない。このフェラーリはすぐに高回転まで回ってしまうので、レースに出場していない日は常に騒音に神経をとがらせて走ることがドライバーに課せられた使命だ。

私は1990年代に一度だけ275を走らせたことがあるし、その派生車なら後年、何台かに乗ったことがある。そうした経験から275はずっと、お気に入りのロードカー・フェラーリとなっている。いやそれだけでなく、メイクや時代を超えて選んでも大好きな一台として私の中で君臨している。ドライバーの足の動かし方ひとつで、エレガントにもなり攻撃的にもなる卓越した個性を持っているというのがその理由だ。カーブではダンスを、ストレートではしなやかに滑走する、まさに優美さと技巧を併せ持つバレリーナのようであるといってもいいだろう。そしてどんなコーナーを走っても、車がいまどういう状況にあるのかをドライバーに伝える能力も持っている。

スタイリングの点でも意義ある車だ。信じられないほど素晴らしいコーチワークは、 1960年代中頃におけるフロントエンジンのファストバックスタイルをこの車によって確立したといわれるほどだ。私はかつてセルジオ・ピニンファリーナに275が250GTOに似ているのはなぜかと単刀直入に尋ねたことがある。答えは単なる偶然に過ぎないというものだった。彼および彼のスタイリストはただただ、フェラーリのベルリネッタがワールドチャンピオンとなる姿を思い浮かべながらデザインした、その結果が275だというのだ。

衝撃的なプロポーションやキュートな細部のデザイン、それにソフィア・ローレンやクリスティーナ・ヘンドリックスがジェラシーを掻きたてるほどセクシーな曲線はもちろん不可欠な要素だが、それよりも275には語るべき重要なポイントがある。それはフェラーリにとって初の後輪独立懸架を持つロードカーだということ。ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、コニのダンパー、それにアンチロールバーからなる近代的な構成が、それまでのリジッドアクスルとリーフスプリングにとって代わったのだ。変速機も凝っている。5段ギアボックスはディファレンシャルと一体となっているが、これはよりよい重量配分を考えての設計だ。V12エンジンがやや後方寄りに配置されているのも同様の理由による。275の元となった250GTと比較すると、エンジンのストロークは55.8mmで同じだが、ボアは4mm拡大されて77mmとなり、その結果出力は280bhpに向上、トルクも増強されている。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Winston Goodfellow Photography:Pawel Litwinkski

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