古きよき60年代ポンティアック・ボンネビルで広大なオーストラリアの原野を走る

ポンティアック・ボンネビル



広大なオーストラリアの原野には、追い抜くべきライバルはほとんど見掛けない。いたとしても、スムーズなクルージングを得意とするボンネビルなら、ハーフスロットルであっという間に抜き去ることができる。タコメーターがないのも当然といえば当然。アイドリングのような状態で50mphにまで達するパワーユニットであるから、大して意味がないのだ。エンジンサウンドは特に低音が豊か。あまりに低周波だから、この車の燃費をまかなえる年齢になったドライバーの耳にはもう届かないのかもしれない。

ベンチシート
旅を始めて2日目。2時間ぶっ通しで走ってもまだ直線路が続いているが、一定の速度で走り続けるのはお手の物である。やがてポンティアックはシルバーシティハイウェイに入っていく。エンジンからの単調で深い轟きと、砂漠のハイウェイから伝わるかすかな振動。気が付けば催眠術にかかったように、私はカーデザインについての"哲学的思索"にふけっていた。このクーペのベンチシートは、前後席を合わせて大人6人が楽に座れるゆったりしたサイズだ。詰めれば8人だって乗れるだろう。ステーションワゴン仕様ならば、3列目にさらに3人は収容できるはずだ。ところが20年後の80年代になると、同様のキャビンの広さと重量ながら乗車定員は5人に減ってしまった。乗用車メーカーは乗員のことを忘れてしまったのだろうか。代わりに付け加えられたものといえば、プラスチックのスイッチが山ほど付いたセンターコンソールである。

1963年式ボンネビルには、アメリカンカーを称えるに値する形容詞がすべて揃っている。ソフトなシートに合わせて完璧に調整された柔らかいサスペンション。ステアリングはきちんとタイヤの方向を変えてくれるし、ステアリングとシャシーは直進するために最適なチューンを施されている。その上、5.55mという程度な大きさならば、何の問題もなくどんなドライブインシアターにも収まってくれる。

そしてこのボンネビルは当時にしては存外にモダンな車だった。オルタネーターは12V、エンジンには油圧式バルブリフター、キャブレターには自動コールドスタートを備える。サスペンションはコイルスプリングで、FMラジオは押しボタン式。前席には3つのカップホルダーまで装備される。また当然ながらヨーロッパ車のようにコーナーを攻めるための妥協など、ステアリングには一切施されていない。正直、ボンネビルが余裕で曲がることのできるカーブは地球の丸さが限度である。幸いアウトバックでは、はるか先の曲がり角が見渡すことができる。だからロックまでぐるぐるとステアリングを回し切ることに慣れてしまえばいいだけのこと。"クラス最大"と広告で謳うっていた広いトレッドのシャシーは、丁寧にコーナリングさえ心掛ければ、ボディのロールはほとんど感じられない。アクセルペダルを踏み込みたくてうずうずとしてくる右足を抑えるのには必死になるのだが、そのパワーを"わずか"303bhpと広告では表現している。このキャッチを見ても、どういう発想からポンティアックGTOが誕生したのかが分かるというものだ。

ポンティアックというブランドは、GMファミリーの中でシボレーとキャデラックの間を埋める存在のひとつだった。フルサイズの標準仕様でエンジンがシボレーより大きく、トランスミッションも2速ではなく3速が標準。しかし、キャデラックの豪華な装備をすべて標準で備えているわけではない。そのおかげで、逆に現代のオーナーにとっては悩みの種が減っている。例えばこの車には電動シートもパワーウィンドウもエアコンもない。それに足回りだって、修理とメンテナンスが欠かせないあのハイドロニューマチック・サスペンションでもない。それでもボンネビルは、ポンティアックのトップモデルである。よく似た姉妹モデルのカタリナやスターチーフと比べると、クロームをふんだんに使い、インテリアも高級仕様で、排気量だって大きい。パワーウェイトレシオが174bhp/tonだから、アクセルペダルを踏み込めば14インチのホワイトウォールタイヤから簡単にスモークが上がるだろう。だが、そんなこれ見よがしの走りをしなくても、ただこの車に座っているだけで自慢したくなるような気分になる。ポンティアック曰く"クリーンで流れるようなデザイン"に、誰もが振り返るからだ。実際に今回の旅では"9回も!"ほめ言葉を投げかけられた。


ほとんどが直線路であるが、それも見飽きることはない。このダッシュボード越しの広大な眺めならば何時間でも過ごすことができる

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編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Marc Obrowski

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