真二つに評価が別れた英国車「ラ・サルト」は、伝統の継承者か?名車ディティールの寄せ集めか?

Photography:Tim Andrew 



ドライブに出掛けてみよう
まずは右ハンドルのドア側にあるギアシフトレバーとハンドブレーキ、および大径のベントレーオリジナルの3スポーク・ステアリングに慣れる必要がある。ラ・サルトの初心者オーナーは、彼らの車に似合ったエレガントな所作のために、多少これらの操作を練習するのが賢明であろう。走り始めてすぐにシートが硬い事に気づく。シートのクッションは形状記憶素材のようで、それは時間をかけて搭乗者の体型を記憶する。ビスポークのメーター類とクラシックなトグルスイッチが整然と並ぶ素晴らしいウォールナットのダッシュボードは、ロンドン郊外に本拠を構えるスペシャリスト、シルバークレスト社の作だ。非常にタイトな時間制限の中、素晴らしい仕事をこなした彼らに敬意を表したいほどだ。事実インテリアのクォリティは見事である。ほとんどはこの車のために新たに作られたものだが、いくつかのパーツについては出処を推測して楽しむことができる。ドアのアームレストはRタイプのもの、ドアハンドルはジャガーEタイプ・シリーズIのロックつきだ。重いドアを閉めるための取手は省かれてしまっているが、もちろん取り付けることは可能で、他にも希望があればオーダーすることができる。エアコンは標準装備だが、シガーの煙を逃がすために三角窓を開閉式にしたいのならそれも可能だ。もちろんエクストラチャージが必要だが。4.6リッターのストレート6はいかにもベントレーらしく貴族的な咆哮を楽しませてくれる。ゆっくりと右足でアクセルを踏み込めば、力強いエンジンの回転とともにトルクの高まりが実感できる。ただいうまでもなく、この車の基本は60年前のものなのだから、優しい扱いが必要だ。ベンスポーツ社は、悪路テストには不自由しないサマセットの田舎の奥深い場所にある。そこでは低速度での横揺れテストも可能なはずだが、そのことはあえて追求しないことにしよう。ラ・サルトの走行安定性は現代のクロスプライタイヤのお陰で酷いことになっていた。サイドの深いバルーン形状は見た目がよく、またサーキットでは真価を発揮するかもしれないが、この車のオンロードダイナミクスを台無しにしていることも事実だ。このタイヤの方向安定性は酷いもので、これまで私が知っている"トラムライニング"の中でも最悪といえる。車は狭い田舎道で左右へ乱暴に引っ張られ、実際のところかなり怖かった。スムーズな道路(A303)においてさえ、直進安定性が悪いため高速での追い抜きは必要以上に気を遣う。高速でのレーンチェンジこそ、ラ・サルトに乗ったらやりたいことなのだが。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:Mark Dixon 

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