国有化されたアルファ・ロメオの窮地を救った「ジュリエッタ・ファミリー」

ジュリエッタ・ファミリー



スパイダーの良さを理解するには、当時のイギリスのスポーツカーを考える必要がある。アルファロメオと同じように、MGAやトライアンフTR3も量産型セダンと部品を共有していた。すなわちオールスチール製のOHVエンジンで、固めただけのサスペンションを備え、ジュリエッタの洗練されたメカニズムとは明らかに異なっていた。また、英国勢は梯子型セパレートシャシーを使用いていることで、大きなスカットルシェイクが避けられなかったが、これもアルファロメオは最小限に抑えている。スパイダーはハンドルを回す開閉式サイドウィンドウや、開閉が簡単なソフトトップを備えていたが、これらは英国製ではもちろん、当時の車でも希有なものだった。アルファロメオの洗練されたディテールは、路上でも明らかだった。

レーシング・ジュリエッタ
ジュリエッタの能力がレースで発揮されるまでには時間はかからなかった。スプリントはデビューしてから1年以内にクラスの優勝を飾り、その後も数々の好成績を収めた。1955年ミッレミリアでは、ワークスチームが走らせたポルシェ356に勝利を譲ったものの、 1300GTカテゴリーには24台ものスプリントが参戦した。アルファロメオはレースには直接かかわらないとの決定を下していたが、1956年には高性能仕様のスプリント・ヴェローチェをラインナップに加えた。同年のミッレミリアでは1300GTクラスで1位から3位を獲得した。

1956年のミッレミリアで、1台のスプリント・ヴェローチェがクラッシュしたことにより、ザガートの軽量ボディを備えたSVZが誕生する。壊れたオリジナルボディを外して、エルコーレ・スパーダによるデザインと言われているボディが架装された。それは驚くほど軽量で、より空力特性に優れたボディだった。顧客の注文に応じて十数台が製作された。

これに注目したアルファロメオから、正式なカタログモデルとして発注を受けてSZが誕生、合計210台が生産された。SZのベースになったのはスプリントではなく、より短い2250mmのホイールベースを持つスパイダーで、ザガートがアルミボディを架装した。ヒーター、マップライト、ハブキャップが備えられたが、アルフィン・ブレーキドラム、軽量シート、プレキシグラスのサイドウィンドウを採用したことで軽量化が図られ、車重はわずか785kg(または770kg)となった。2基のウェバー・キャブレターを搭載した1300ccエンジンは100bhpを発揮し、ギアボックスは5速で、最高速度125mphを誇る。

典型的なSZはショートノーズに、短く丸いテール(コーダ・トンダ)を持つが、今日、私たちがアルファロメオ博物館で目の前にしているのは、後期モデルとして造られたコーダ・トロンカ・モデルだ。コーダ・トロンカは生産台数が30台という希少なモデルだ。空力特性を改善するため、ラウンドしたテールを伸ばし、リアを切り落としたようなカムテールに改めた。

小さくSZに乗り込むべく、ドアを開けるとその感触は日曜版の新聞よりも軽いと思った。

シンプルで美しい黒いダッシュボードと、 3個のメーターが収まっている計器板を前にして座る。ダッシュボードの中央には7個のスイッチがある。決して繊細とはいえない、大きな咆哮を発しているにもかかわらず、ダイレクトな感覚のステアリングと軽い車重により、4000rpmまではデリケートな操作が要求される。しかし4000に達すると、すさまじいエンジンの音は、驚くほど上品な唸りへと変わる。ツインカムがもっともその性能を発揮するポイントだ。

そのエンジンの鋭いピックアップ、クロスレシオの5段ギア、そして機敏なハンドリング性能が、ドライバーに大胆な走りを促す。しかし、コーナリング時はその掻き立てられる気持ちを抑え、ジュリエッタのロールをコントロールしなければならない。狙いを定め、加速を止め、車が落ち着いたところでアクセレーターを踏む。さもなければ、ボディは大きくロールして、コントロールが難しくなってしまう。このこつを掴むと、SZはうっとりするほど速く、そのメカニカルパーツは素晴らしいサウンドを発する。半世紀前の車がこのようなパフォーマンスを見せることに驚かされる。さらに驚くことは、ファミリーカーのベルリーナを含め、すべてのジュリエッタが同じ特性を備えていることだ。これが多くのライバルが、ジュリエッタのレベルに追いつくまでに20年かかった機構的な特性だ。ステイリングもまたそうだ。


アルファロメオは現在、新しい後輪駆動シリーズで、同じようなマジックを再び起こそうとしている。成功すれば、間違いなく賞賛に値する車になることだろう。

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編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Richard Bremner Photography:Alfa Romeo

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