欧州では定番の収集アイテム「自動車ピンズ」の魅力|AUTOMOBILIA 第2回

Photos:Kumataro ITAYA

オートモビリア(自動車関連蒐集対象物)を肴に彷徨う第二回は、ぐっと身近なピンズ。実はピンズの世界も奥が深く、自動車メーカーを擁する欧州大陸の国々、特にフランス、ドイツ、そしてイタリアに収集家が多い。ピンズだけにピンからキリまで、おびただしい数が存在している。

宝飾メーカーとピンズ
宝飾メーカーの手掛けるピンズには魅力的なものが多い。実例をあげてみよう。

ピニンファリーナがミトスの発表を記念してつくったピンズがある。ピニンファリーナ・ミトスは同社が手掛けたコンセプトカー、 1989年の東京モーターショーでワールドデビューを飾っている。ミトスのようなクルマのワールドプレミア、すなわち世界初お披露目の場として東京が選ばれたことはとても慶ばしいのだが、当時の東京モーターショーは国際的な感覚で運営される自動車ショーからは程遠く、ミトスが展示されたのも部品館の片隅だった。そのあまりの冷遇ぶりに、日本の後進性を嘆いたものである。

当時ピニンファリーナの主任デザイナーで、後にフィアットグループのデザインを統括する要職に就いたミトスのデザイナー、ロレンツォ・ラマチョッティ氏も、さぞや悔しい思いをしたことだろう。ちなみにこのラマチョッティ氏、聞くところでは、トリノ工科大学において空前絶後の成績をおさめたダンテ・ジアコーサ氏の持つ記録を、ことごとく凌駕したほどの俊才だったらしい。ミトスの発表時に、ごく少人数で夕食をとりながら懇談したことがあるのだが、実に温厚な紳士で、東京モーターショーにおけるミ トスの不当な扱いについて、何らぼやくことはなかった。

ミトスのピンズの話だった。このピンズをつくったのは1750年に創業したイタリアの老舗宝飾店ジャンマリア・ブチェラッティ。一枚革で包まれた特製のケースからも品格が漂う。ブチェラッティは日本に路面店がないので聞きなれない名前かもしれないが、海外における知名度は高い。部品館の一隅しか与えられなかったピニンファリーナと、日本では知名度の低いブチェラッティ、両者にはどこか通じるものが感じられる。

ブチェラッティの海外における様子を示すものとして、映画「プリティウーマン」の舞台となった米国ビバリーヒルズのホテル・ビバリーウィルシャーの例を。ロデオドライブを下ってくると正面にビバリーウィルシャーがそびえている。そこで目に入るホテルの一階に位置しているのがジャンマリア・ブチェラッティである。

脱線・ホテルの話
ここで少し脱線をお許しいただいて、ホテルの話など。

もしビバリーウィルシャーに宿泊することがあれば、断然スイートをお薦めしたい。チェックアウト時にその差が歴然とする。チェックアウトの手続き自体は最近のホテルの常で、全く時間がかからない。問題はラゲッジである。チェックアウトが集中し、人々でごったがえすロビ ーで、なかなか部屋からラゲッジが下りてこない、というのはよくあること。にもかかわらず、スイートの部屋からのラゲッジは素早く下りてくる。

スイートの専用階でベルボーイが鍵を使って荷物用のエレベーターを呼ぶと、たとえ他の階で呼ばれていたとしても、そのエレベーターはスイートの階を最優先にする。したがって、通常階に宿泊する客のラゲッジよりも、スイートの階のラゲッジの方が先にロビーに下りてくる。ベルボーイは駐車係との連携もよいので、バレーパーキングのクルマも他より前に準備されているという次第。これはさりげなくてありがたいサービスのひとつだと思う。

プライベートでは欧州に出かけることが多い。大きなホテルは苦手なので、ロンドンではコノートという小さなホテルに泊まるようにしている。英国と米国、たとえば次のような違いがある。

これから雨が降りそうな時、それに気付かず雨具も持たずにホテルから外出しようとした場合。

それがビバリーウィルシャーなどの米国のホテルであれば、ベルボーイはすかさず「傘をお持ちください」、と傘を差し出す。

対するロンドンのコノートは、「1時間もすれば雨が降りだします」、とコンシェルジェが正確な情報を伝えてくる。それだけである。傘を持って行くのか、部屋に戻ってコートを羽織るか、レインハットを持ち出すか、何も持たずにでかけるか、はたまた外出そのものをとりやめるか、は客が判断することなので、コンシェルジェは尋ねられない限り対策案を押し付けることをしない。わたしが傘にしようと決めてコンシェルジェにその旨話しかけようとすると、こちらが声を発するより前に傘が差し出されたりする。これがコノート。ちなみにコノートのチーフコンシェルジェは、世界で最も優秀なコンシェルジェに選ばれたことがある。

この英米ふたつの異なった対応をもう少し掘り下げてみよう。米国の対応において、ホテル側は客が外出すると決めてかかっている。

英国の場合は、雨が降ると聞いて客が外出をとりやめる、というオプションまで考えているのである。したがって、外出を前提とした対策案のひとつにすぎない「傘」、を押し付けることはしないのだろう。わたしは、もちろん、英国的な対応が好みである。

文、写真:板谷熊太郎 Words and Photos:Kumataro ITAYA

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