レストアの「素材」として切り刻まれたフェラーリの再評価|250GTピニンファリーナ・クーペ

フェラーリ250GT PFクーペ



この車は文明的な装備を申し訳程度に備えただけのレースカーではなく、外観も完全なロードカーである。この車は事実上、1957〜58年の間に生産されたピニンファリーナによるデザインスタディの進化版と言えるが、重要なのは均一性、要するに一台一台が微妙に異なる"一品もの"ではないという点だ。

エンツォ・フェラーリは自分の製品をライバルのそれと明確に差別化することを望んだが、そのせいか、その時点までに101種ものボディスタイルが存在しており、それがコメンダトーレにとって悩みの種だった。そこで新しいプロジェクトはオートクチュールというより既製品に近いものを目指していた。もちろん繰り返すが、それも相対的なものである。エンツォ自身も250GTを「最新ファッション」と語っているのである。

全長4400mm×全幅1725mm、ホイールベース2600mmの堂々としたサイズの2シータークーペは、洗練されたエレガントなボディスタイルが特徴である。このボディの下の基本コンポーネントは、ロングホイールベースのティーポ508シャシーも含めて250GTトゥール・ド・フランスから流用されたもので、2953ccから240bhpを生み出すエンジンはジョアッキーノ・コロンボ設計の1.5リッターV12レースユニットをルーツとしている。

フォト・ジャーナリストのベルナール・カイエはこの車にとりわけ惚れ込んだひとりで、『ロード&トラック』誌にこう書いている。「フェラーリの新しいグランツーリスモ・クーペを見て、発表会に集まったすべての人は大喜びをした。その鮮やかで活き活きとしたスタイルのおかげで最初に予定された200台はたちまち売り切れたという。ピニンファリーナの息子であるセルジオの手によって、ドライバーが快適に、かつ速く走るためにすべてが注意深く考えられている。室内もきわめて広く、トランクも驚くほど大きい」

その後、実際に試乗できるようになるとメディアはますますPFをほめそやした。『オートスポーツ』誌のジョン・ボルスターの記事はその好例だ。「何よりも抜群の静粛性とスムーズさに驚いた。このフェラーリは驚異的な性能と抜きん出た洗練度を備えた素晴らしいラグジュアリーカーである」

1960年、『ロード&トラック』誌は西海岸のディーラーで、レースにも参加していたジョン・フォン・ノイマンの妻、エレノア・フォン・ノイマン所有の車を借りて、記事を掲載した。「250GTはタウンスピードではきわめて従順でおとなしく、普通の小型車と変わらない。そのエンジンの柔軟性たるや、経験してみなければ信じられないほどである」ライバル誌の『スポーツカー・グラフィック』も1960年の"スポーツカー・オブ・ザ・イヤー"に選出している。

車重1370kgの250GTはそれほど軽快ではないが、十分に速い。とはいえ、もしかするとあなたが信じているかもしれないフェラーリの楽観的な性能データほど速くはない。フェラーリは240km/hの最高速を主張していたが、『ロード&トラック』誌のために後にF1チャンピオンとなるフィル・ヒルがテストしたところ、実際には126mph(203km/h)に留まった。いっぽう『モーター』誌は135mph(217km/h)を記録した。もちろんそれでも1960年当時の市販車としてはとんでもない数字である。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Richard Heseltine Photography:Paul Harmer

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