桁違いの「じゃじゃ馬」デイトナはフェラーリ250GTOよりもレアな存在か?

Photography:Paul Harmer



アプローチを誤るとまったく違う世界がやってくるのだ。眠れる巨人が覚醒したかのごとく。一度成功したからといって油断すると肝をつぶすことになる。スペイン、マラガにあるレース・リゾート・アスカリは天国のように素晴らしい場所で、オーバルコースだけなら何事も起こらなかっただろうが、それにつながる26もの難しいコーナーも走らなければならない。デイトナはコーナーのたびに「方向が違う!」とステアリング修正を迫るのである。その要求はノーズの重さもあって攻撃的すぎるほどで、最終的にはアペックスをサイドウィンドウから見るようになる。すなわち振り子のように激しく揺すぶられるのだ。荒波を漂うボートの中で、私はただただアンダーステアと格闘するしかなかった。

デイトナを飼い慣らす喜び
こうした体験から私はあることを学んだ。あめとむちを使って手際よく乗り切るのがカギだと。車と対峙するのではなく、先を行くのだ。方法は以下のとおり。まず曲がろうとする方向にステアリングを一瞬切る。パシッとばかりに先制パンチを加えるのだ。するとシャシーはボディロールを始めようとするがその「たるみ」は重要ではない。それから実際にターンインしようというアクションを起こす。すると車は釣り合いをとろうとついてくるのだ。そうしたらしめたもの、本来のステアリング操作をすればよい。ドライビングの大家、ロブ・ウィルソンが言っていた「小さく曲がり大きく曲がる」の実践である。

信頼を高めるためにはブレーキがもう少しよくなればいうことがない。冷却孔はあるものの小さいスチール製のディスクとキャリパーはカンパニョーロ・ホイールのリム内にきれいに収まっていて、ロードユーズには合っているが、こうした走りにはちょっと物足りない。誰も文句をいわないのだろうか? 1300kg近い巨体を約300km/hの最高速から止めるのはなかなかの快挙であるが、これ以上のことをブレーキに要求したら1周もしないうちにオーバーヒートし、再び制動圧を得るためにコーナーとコーナーの間でポンピングしなければならない。こんなのはちょっとごめんだ。

私がみつけた解決方法は、ここでも警告を与えることだ。スロットルからブレーキへの足の移し替えをスムーズに行うとともに、そのタイミングもリアからフロントに荷重を移したいと思うよりも少し早めに開始するのだ。足の動きも重要。素早く、ではなく徐々に力を込めて、だ。そうすることで車はつんのめらずに水平に近い姿勢を保ち、それまでフロントだけが担っていた仕事量を4輪で分かち合うようになる。これでブレーキフェードの発生も抑えられる。

V12エンジンは低回転ではくすぶりがちだが、5500から8000rpmの間では甲高い声で朗々と歌う。とくに、7000rpmから始まるハーモニーの美しさたるや得も言われぬものだ。ストレートが長ければ充分にそれを味わえるが、そうでないとスロットルから足を上げるのが惜しくなるほどだ。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Sam Hancock 

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