あれほど支持が高かった「フォード・アングリア」がカーレースから姿を消した理由とは

フォード・アングリア



クロフト・アウトドローモを走る
1960年当時のアングリアが、たとえばミニと似た存在だったとは到底いえない。ミニがクラスレス(最近の言葉でいえば"クール")だったのに対し、アングリアはより実用的で、必然的に時代の香りを漂わせていた。このため、いかにロールケージやシートが新しく、金属製パーツが目映いばかりに輝いていても、シートに腰掛ければ当時の記憶が否応なく甦ってくる。

おそらく、垂直近くに切り立っていて周囲が直線的に切り取られたウィンドウスクリーン、それに背が高い割に幅が狭いキャビンの後ろ側に取り付けられた特徴的なリアウィンドウ、さらにはボディの奥まったところに取り付けられた貧弱なホイールなどが、私の古い記憶を呼び覚ますのだろう。もっとも、レース仕様に仕立てられた2台は、フェンダーぎりぎりまでサイズを拡大した幅5.5インチの13インチ径ホイール(ナイジェルのアングリアにはマグネシウム製ミニライト、マックスの1台はスティール製ロータス)が装着されていた。

2台ともショルダーが角張ったダンロップのクロスプライ・ヒストリックレース用タイヤを装着しているが、そのグリップ・レベルはどちらも当時を彷彿とするものだ。もっとも、トレッドが狭いためにやや不思議なドライビング・スタイルを強いられることがある。もうひとつ忘れられないのが、ステアリングがまるでバリアブル・レシオのように感じられること。もちろん、電子制御された現代風のものではなく、ガタを締め上げることでステアリング・レスポンスの向上を狙った結果と推測される。

この種のサルーンカー・レーサーをサーキットで走らせるとき、多くの場合、車の反応を見極めながらステアリングを操作することになる。ただし、ステアリング・レスポンスには遅れがあるので、本当に反応し始めたときには一度戻し、また切り足すという動作を繰り返さなければならない。これには本当にうんざりさせられるが、数周も走ると最初に感じた違和感は消え去り、余計なことを考えないで済むようになる。この種のドライビングをオンボード映像で見るたびに顔をしかめたくなるし、誰かが言っていたとおり、これが間違ったドライビング・スタイルであることは明らかだ。しかし、どうやらこれ以外に当時の車を操る方法はないようだ。

すぐに思い起こしたことが、もうひとつある。ブレーキを軽く踏んでスピードを高く保ったままコーナーに進入した後、少なめの操舵と同時に強めのブレーキをかけると、アングリア特有のクセを示すのだ。リアのトレッドは120cmほどしかないので、ボディがロールしたときにタイヤを接地させておくのは至難の技といえる。



ブロードスピードにインスパイアされたナイジェル・ケンプのアングリアは997ccエンジンのデラックスがベース。現在の排気量はおよそ1300ccで、コスワース製シリンダーヘッドを装備。赤くペイントされたスーパースピード・レプリカ同様、こちらも最高出力はオリジナルのおよそ2倍に達する

編集翻訳:大谷 達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Hales Photography:John Colley

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