あれほど支持が高かった「フォード・アングリア」がカーレースから姿を消した理由とは

フォード・アングリア



当時のクラブ・レーサーの多くはフェンダーに手を加えてワイドなホイールを押し込んでいたが、フェンダーを加工するとホモロゲーションを取得できなくなるので、極端に幅の広いホイールを装着するわけにはいかない。それでもタイヤのグリップを高めたり、ボディをフラットに保つために硬めのサスペンションを装着すると、2輪が宙に浮いた格好となる。思いがけずそんな状況に陥ったときには、背筋が凍るほど怖い思いをする。ただし、今回紹介する2台は比較的やわらかいスプリングを装着しているうえ、トレッドは最低限なので、ステアリングを切り増したり戻したりするたびにボディは左右に大きく揺れた。しかも、こうした動作はイン側の後輪にかかる荷重を大きく左右するため、タイヤがグリップしたりスリップしたりするたびに、まるで馬のいななきのような音を立てることになる。

思ったより速いスピードでコーナーに進入することも可能だが、その場合は後輪により多くの仕事をさせる必要がある。反対にフロントに大きなロールを誘発すると横転する恐れがあるので要注意だ。そうやって勢いを保つことができれば、ノーズの向きが完全に変わるまでスロットルを踏み込む必要はない。高速コーナーではドリフトさせることも可能だ。ただし、フロントをしっかりとグリップさせる現代の車とは特性が大きく異なるので、アングリアの諸元に見合ったかつてのスタイルでドライビングするしかないだろう。もっとも、ギアボックスは4速だから、下のギアはあまりに低すぎて選べないし、上のギアにシフトすればエンジンはプスプスと不平を述べ始めるはずだ。

どちらのエンジンも1300ccクラスの限界近くまでチューニングしてあるので、最高出力は似たり寄ったりだ。おそらく105bhp、ひょっとすると110bhpと、標準エンジンの2倍近いパワーだが、ドライバーはいつでもこのエンジンの実力を引き出せるように準備しておかなければいけない。キャブレターは、レギュレーションに基づいてコルティナ用のツインチョーク・ウェバーを装備しているものの、これは吸気量を制限する役割も果たしている。そうしたある種の限界はあるが、当時のスペシャリストたちがフォードの小さな4気筒エンジンを好んで使った理由は明白だ。ショートストロークで、8つのポートを持つシリンダーヘッドをプッシュロッドで駆動するこのエンジンは、8000rpm近くまで軽々と回るいっぽうで、ギアチェンジはいつでも気持ちよくスパッと決まる。2台とも、クワイフ社がアフターマーケット用に製作したストレートカット仕様を現在は装備しているが、そのフィーリングは申し分なく、ドライバーは必要もないのにシフトしたくなるに違いない。

編集翻訳:大谷 達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Hales Photography:John Colley

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