憧れのボンドカー9選|『007/ゴールドフィンガー』から『007/慰めの報酬』まで

ボンドカー大全



ロータス・エスプリS1
『007/私を愛したスパイ』/1977



ロジャー・ムーアのボンドについてどう思うかは人それぞれだ。気障な立ち居振る舞いや人を食ったようなセリフ、『007/ダイヤモンドは永遠に』でコネリーが先鞭を付けたコミカルな路線などを嫌う人もいる。だが、大半の人にはそうした点が愛された。とはいえ、最初の2作、『007/死ぬのは奴らだ』と『007/黄金銃を持つ男』では、コネリーはおろかレーゼンビーを上回る印象すら残せなかった。登場する車もボンド映画にしてはいかにもお粗末だ。なにしろ、ダブルデッカーバスとAMCホーネット(しかも舞台となったタイでの販売はなかった)である。

だがありがたいことに、1977年公開の『007/私を愛したスパイ』で、ボンド映画は再び息を吹き返した。ロータス採用の裏には、こんな逸話がある。美術監督ケン・アダムのオフィスの前に、プロトタイプのエスプリが停まっていた。車の魅力でアダムを虜にできると読んだロータスのPR担当者が置いていったのだ。案の定、アダムのほうからロータスに連絡があり、エスプリを2台(うち1台はコーリン・チャプマン所有の車)提供することで話がまとまった。

軽量で16バルブエンジンをミドシップに積むエスプリは、燃費がよく、レーシングカー並みのハンドリングを誇り、70年代を象徴する存在として、まさにうってつけだった。ところがエスプリに待っていたのは、なんと潜水シーンだった。当然ながら、撮影は大掛かりなものとなり、変形しながら陸地と海を移動するシーンのために、6台もの模型が使われている。うち1台は実物大で、ほかにも完璧に機能する1m弱のリモコン潜水艇などが造られた。

こうして完成した映像は、現実と見紛うばかりの出来栄えだった。ケン・アダムはもちろん、特殊効果を担当したデレック・メディングスの功績だ。アカデミー賞と英国アカデミー賞の両美術賞にノミネートされたのも当然といえる。

だが、エスプリの走りに関しては、もっと正確に描いてほしかった。サルディニア島のワインディングロードを舞台にしたカーチェイスでは、ボンドのエスプリが大型トラックを抜きあぐね、その上、あろうことか悪党が乗ったフォード・タウヌス2.3ギアを振り切ることにも失敗するのだ。ロータスのエンスージアストなら、何度見てもやきもきするに違いない。だがその分、ジェットレンジャーのヘリから逃れるシーンでは、自慢の敏捷性をいかんなく発揮している。そこから、海へとダイブする有名なシーンへと続く。

今やボンドカーの中でもDB5に次ぐ人気を誇るエスプリだが、本作には、それに負けない印象を残した車があった。ソ連の工作員アニヤ・アマソワ(バーバラ・バック)とボンドの二人が荷台にしのび込んだ真新しいバンだ。このレイランド・シェルパは、その後、ヘッドガスケットの不具合を起こして砂漠の真ん中で立ち往生してしまうのだった……。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Paul Hardiman Photography:Ashley Border, Simon Clay, Paul Harmer

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