神聖化された3台のアストンマーティン「DP」シリーズの一斉テストでわかった事実

Photography:Matthew Howell Period images courtesy Brian Joscelyne, Neil Corner and Paul Chudecki



3台の新型マシン
ル・マン24時間レースを制するにはひとつだけの武器では充分ではないと考えたアストンマーティンは、猛威を振るうフェラーリ250GTOの対抗馬として、GTクラス向けに2台のプロジェクト214を製作、さらにプロトタイプクラスに参加させるためのプロジェクト215を開発した。当時のレギュレーションは現在に比べればずっとルーズで、たとえばGTクラスの車両はベースの市販モデルと似ているというだけで認められたものだった。この点ではレースカーとロードカーの共通点はDB4GTで始まるシャシーナンバーぐらいだった。

限られた時間という都合上DB4GTのシャシーを利用した212とは違って、214のプラットフォームシャシーはユニークなものだった。軽量化のための孔を開けられたボックスフレームをアルミのフロアパンに取り付けたもので、当然ながら標準型とはかけ離れていた。アストンはさらにエンジンの搭載位置についてもルールを拡大解釈した。ルールでは「フロントに搭載すること」とあるのでフロントに積むが、実際には8.5インチ(63.5mm)も後方に寄せて搭載されていた。これによってフロントヘビーだった212の重量配分を改善したのである。テッド・カッティングは後に「ルールを掻い潜る練習のようだった」と語っている。

ボディやシャシーと同様、サスペンションも形式さえ同じであればいいとされていた。そこでフロントサスペンションはコイルやウィッシュボーンはそのまま使用したが、アッパーウィッシュボーンを短縮した上に、ロールセンターを調整できるように細かい変更が加えられ、さらにリアのデフマウントにはワッツリンクのマウントを何カ所も設け、同様に調整可能なタイプとされていた。リアアクスルもより幅広いホイールを履くために狭められていた。ブレーキはDP212を踏襲、ホイールは16×51/2をフロントに、リアは16×6 1/2を装着、タイヤはそれぞれ600セクション、650(または700)セクションを履いていた。

緩いレギュレーションはボアを1mm広げることを認めていたので、2台の214のエンジンは3750ccまで拡大されていた。50DCOキャブレターを備えたDB4GT/0194/RとDB4GT/0195/Rのエンジンの最高出力はそれぞれ314bhp/6000rpm、310bhp/6000rpmで、ギアボックスはDB4GTと同じ標準型のS432型4段マニュアルを使用していた。ボディは212と似ていたものの、フロントのインテークは小さく、フロア下に流れ込む空気を抑えるために車高も下げられ、ライトの内側にはNACAダクトが設けられていた。いわゆるウェットでの車重は962kgという。

いっぽう、似たようなボディを持つ DP215の中身はまるで別物だった。シャシーは無数の孔が開けられた角断面チューブによるラダーフレームにアルミのフロアパンを張ったもの。フロントサスペンションは214に近いが前後の向きを反対に取り付けられていた。特徴的なのはリアサスペンションで、215は不等長のダブルウィッシュボーンを持つ完全な独立式に改められていた。ホイールとタイヤ、ブレーキについては214と同じである。またもともとはDBR1用だったCG537型5段トランスアクスルもこの車だけの特徴である。パワーユニットはメインベアリングを強化した3996ccの212エンジンであり、214よりもさらに1.5インチ後方に搭載されていた。キャブレターは50DCOだが、ただしドライサンプに変更されていたおかげでボンネットの高さは214よりもさらに低められていた。乾燥重量は907kgまで軽量化された。215のエンジンの最高出力は326bhp/5800rpmだった。本来DP215はマレック設計のアールアルミV8ユニット(DP213)を積む予定だったのだが、そのエンジンは依然開発途中だった。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Paul Chudecki 

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