コレクター垂涎のフェラーリとポルシェの「ミニカー」|AUTOMOBILIA 第4回

Photos:Kumataro ITAYA



欧州の映画はもちろん、ハリウッド製の映画でも、どのようなクルマをどの場面に登場させるかについては、細心の注意がはらわれている。対する邦画は、まだ時代考証すらしっかりと行なわれていない場合が散見される。たとえば、「日本のいちばん長い日」。原田正人監督の作品は、あさま山荘事件を扱った「突入せよ」など、どれも台詞を覚えてしまっているほど好きな作品ばかり。「日本のいちばん長い日」も、同名の岡本喜八作品とは違ったすばらしさがあり、観ていて惹き込まれた。

しかし、でてくるクルマはいけない。阿南陸将が使用している設定のメルセデスのポントンを筆頭に、描かれている時代には存在しないクルマがいくつも登場する。このことからも、「日本のいちばん長い日」では、メルセデスのポントンがポントンとしてではなく、単に、古い黒いクルマ、として扱われていることがわかる。

時代考証以外にも、邦画では、この人がこんなクルマに乗るだろうか、と疑問に思うことも少なくない。

一方、西洋の映画では、クルマは登場人物の設定を表わすのに大切な要素として用いられている。たとえば、もはやクラシックの部類かもしれない「バックトゥーザフューチャー」や「アメリカンビューティー」などのクルマの扱いに、彼我の差を感じる。

これは観客のレベルにも因るところが大きいのだろう。日本ではまだまだ、クルマはクルマ、名前も種類も特定する必要はない、というのが映画の制作者だけでなく、観客に共通した認識として残っているのかもしれない。

映画のみならず、日本のお家芸のひとつであるマンガの世界においても、日本では箱型で車輪が4つあるというだけの、固有名詞のないクルマが描かれているのをよく目にした。欧州のマンガは、たとえば「タンタン」シリーズのように、そのクルマが何であるかはっきりとわかる描き方をしている。


文、写真:板谷熊太郎 Words and Photos:Kumataro ITAYA

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