ミウラの生誕50年を祝うために集結した「歴史上最もゴージャスな3台」とは?

Photography:Matthew Howell



50年の歳月
バルボーニは、このあたりの教会や農家といった建物は変わっていないと言う。しかし、今では道路の脇に赤いテープで囲まれた崩れかけのビルがある。この40〜50年の間に、このあたりの田舎の村がどう変わったのかが見て取れる。たったひとつ変わっていないのは郷土料理だ。ロードサイドの素朴な食堂で絶品の5種類のパスタ・ソースを食べ、遅めの午後の日の光を浴びながらドライブに戻った。

バルボーニはSVに最後の咆哮を上げさせ、どこか生意気な感じでステアリングを切ると、急にヘアピンが現れた。私はこれではスライドするだろうと身構えたが、少しもその気配はなかった。彼を見ると、眉毛を上げながら「オーナーが後ろに付いて来ていなければ、ヤってしまっていたかもね」と、悪戯っぽく笑って答えた。生き生きとしている彼は、まるで40歳以上も若い様に見えた。

そしてやっと私の番になり、フリードマンが彼の車のキーを私に渡してくれた。それはオリジナルのSVのキーで、40年以上の歳月が刻まれている。繊細なボタンを押してドアを開け、体を縮こませて車内に入り、ステアリングの後ろで落ち着いてから背伸びをする。ステアリングの表面は不完全ながら素晴らしく、穏やかに古びている。そこかしこに小さなこぶがあり、艶がなくなったマットな黒色で、仕上げも年月を経た擦れによりスウェードの様になっている。座る姿勢にはすぐに慣れる。直立しているわけではないが、水平になる様にしてもたれた後、頭をヘッドレストに、そして上半身はなんとも刺激的にスリムな背もたれに当てがう。

ギアノブに手を伸ばすと、指を置きやすくするために反対側に溝が掘られているのが分かる。手で包み込み、ファーストギアに入れる。根元のスロットには綺麗に入るが、操作は軽くはない。クラッチも少々固いものの、少なくともトラベルは均等でバランスが取れている。アクセレーターペダルに足を置き、回転数を上げた。

なんという強大なトルクだ。大急ぎでセカンド、サードとシフトアップしていく。シフトフィールはどのギアも同じだ。加速は力強く、永遠に続くかのように伸びていく。エンジン音と加速が相まって変化し、ともにペダルの1mmごとの動きに呼応する。V12エンジンが咆哮を上げ、低音が響き渡り、輝きを放つ。正に生きているかの様で、ミウラはすべての感覚を満足させてくれる。

SVの乗り心地はSよりハードで、コーナーに入るとより多くの集中力、自信、冷静さが必要になり、スローイン・ファストアウトが鉄則だ。当時のテストドライバーたちにとって不満であった限界時のナーバスさや、エアロダイナミクスに誘発される高速時のフロントリフトが、イタリアの平坦な田舎道での猛烈なドライブで現代に蘇る。ミウラは正にスリルを追い求めるミサイルだ。古くなったステアリングはキャスターアクションにより自然と鼓動している。かつて私が運転の楽しみを感じた車の中で、最も冗舌なもののひとつだ。

そして、考えられないことが起きた。

コーナーを脱出し、加速しながらサードにシフトアップし、 さらに右足を深く踏み込んだ。だが、何も起きない…。スロットル・リンケージが壊れてしまったようだ。仕方がなくルート上の最良のラインを惰性で進みながら、他の2台のミウラが待つ場所へ戻り、マット・ハウエルが構えるカメラにポーズを取った。故障だ。しかもなんとも辺鄙な場所で。だが、バルボーニが側にいるから安心だ。案の定、彼は「大丈夫だ」という。「ミウラは止まっても、立ち往生することがない。メカニズムの不具合なら必ず直せるから」

キャブレターに繋がるスロットル・リンケージがボールジョイントから外れているのが見えた。「たぶん、前に外れたときに、きちんと直していなかったのだろう」と、スティックを差し込みながら、彼は肩をすくめて笑いながら言った。スロットル・リンケージを取り出すと、彼はその先端のボール部を触る。取り出す前、それは魅力的な金色の部品が付いた小さな水滴のように光った。きちんとソケットに戻された。

ただし、辺りは暗くなりはじめた。ランボルギーニ工場のミュージアムに誰かが明かりを残しておいてくれていた。戻って見物もできそうだ。いろいろあったが、こんなに最高の一日が他にあるだろうか。


1971年ランボルギーニ・ミウラ
SVエンジン:3929cc、V型12気筒、DOHC、ウェバー40IDL3Lキャブレター×4基

最大出力:385ps/7850rpm 最大トルク:39.5kgm/5000rpm
トランスミッション:5段MT、後輪駆動 
ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前/後):ダブル・ウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー

ブレーキ:ヴェンチレーテッド・ディスク 重量:1333kg 性能:最高速度 285kmh、0〜60mph 5.0秒

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.)原文翻訳:東屋 彦丸 Translation:Hicomaru AZUMAYAWords:Glen Waddington Additional Reporting:Massimo Delb.

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