ダットサン"フェアレディ"240Zは欧米からどう評価されたか? 創造神話をめぐる論考

1973年ダットサン240Z(Photography:Paul Harmer)



アメリカ市場を見据えたスポーツカー
1960年代のはじめ、日産にはアルブレヒト・ゲルツがコンサルタント・デザイナーとして雇われていた。ゲルツはレイモンド・ローウィから自己PRの技術も教わった人物だった。これ以前、ゲルツはローウィのスチュードベーカーや、BMW507の開発に携わった経歴があり、この仕事ぶりをフェリー・ポルシェが気に入り、911の開発初期にデザイン案をいくつか提供している。

日産において、ゲルツは社内デザイナーである木村一男と連携してシルビア・クーペのデザインに関与している。それはたいへん美しいデザインであったが、1965年のニューヨーク・オートショーで発表されると、アメリカではサイズが小さく、パワーも不足すると現地の評論家たちから指摘された。

ゲルツは、第1造形課第4デザインスタジオの松尾良彦、吉田章夫、千葉陶らに、斬新な新しい車をデザインするよう促したといわれる。実際にデザインを描いたのは日本人のデザイナーだが、ゲルツは240Zの誕生に貢献した者でありながら、そのメンバーに名を連ねるには長い期間を費やした。ゲルツが粘り強く主張したことにより、1980年、日産はこの事実を部分的に認めている(※本記事3ページ目『本稿を読んで感じたこと』を参照のこと)。確かにカーデザインは共同事業ではあるのだが。

Mr.Kのコンセプトは、ロードスターではなくクーペであった。米国で強化される安全規定ではコンバーチブルに将来性がないこと、また快適なクローズド・ボディを持つことが広く市場に受け入れられる条件だと考えた。また、Mr.Kは、モデル名には女性的な名称ではなく、男性的なものを用いることを好んだ。"Z"は、近未来のモダニズムを表したものだ。初期の設計案はジウジアーロのギブリに似ていたとも言われるが、1969年10月22日に米国で発売された車は、完全なる独自スタイルを備えていた。


ダットサン240Zの発表以前にも日本のスポーツカーやクーペがあったが、どれも米国市場に目を向けてデザインされたものではなかった。黒い成形品を使用した内装は東西冷戦時代の世情を思い起こさせる。


アメリカのスポーツカー市場を刷新
2393cc、150bhpのSOHC6気筒、L24型エンジンを搭載した240Zは、英国のライバルをいとも簡単にしのぎ、米国におけるMG、トライアンフ、オースティン・ヒーレーの支配力を完全に奪った。片山はニューヨークでの発表時にこう語っている。「240Zは日産の想像力に富んだ精神を表しています。そして要求の厳しいアメリカの人々のテイストに応えられるようデザインされました。欧州のコーチメーカーやエンジンビルダーの素晴らしい芸術性を研究し、私たちの知識と日本の職人の技を融合させました」

デビュー当時の販売価格は、3,526ドルと比較的安価だった。一部の評論家は仕上げとハンドリングがわずかに粗いことを指摘したが、発売されるや否や、市場は飛びつき、SCCAレースでも圧倒的な成績を収めた。

240Zは際立つビジュアルを備えていた。一般的なレイアウトはジャガーEタイプに倣い、長いボンネットとぐっと後方に寄せられたキャビンを備え、鋭敏なスカラップ・スタイルのヘッドランプは、フェラーリの影響を受けているともいえるが、全体としては独自のスタイルだ。小型ではあるが、印象的で力強く、それでいながらエレガントな雰囲気を持つ。

登場から50年近くを経ているが、スタイリングは"ムカシの車"とは見えない。240Zに乗ってみて、やっとこれが半世紀前の車であると実感させられる。現代の車に親しんでいる私たちの目では、室内は非常にタイトで華奢。車高も少々高いように感じられ、ドアは貧弱に見え、驚くほど薄い。また、サイドガラスのサッシからは脆弱な印象を受ける。鋭いエッジがいくつかあり、衝突したときにはどうなるのかと不安に感じさせる。実際、この車ではリアハッチの開口部にまたがってバーが追加されており、ボディが柔軟であることを示している。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Stephen Bayley Photography:Paul Harmer

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事