アウディ・クワトロでモンテカルロを走る|30年前に革命児と評価された四駆パフォーマンスを体感

1982年アウディ・クワトロ(Photography:Martyn Goddard)

30年前、メル・ニコルズとフォトグラファーのマーティン・ゴダードのコンビが、モンテカルロ・ラリーを戦うアウディのワークス・クワトロを追いかけた。このふたりが再びアルプスを駆け抜けた。

フランス、オートザルプ県。峠へと向かう私たちの目の前に1本の道が続く。この道はいわば宝の山だ。緩急さまざまなコーナーを描きながら、木々や岩壁の間を縫って登っていき、「車の持てる力をすべて出してみろ」と誘いかけてくる。連続するコーナーを直線で結んでみようかと試したくなるが、無理だと悟るのに時間はかからない。スピードはぐんぐん上がっていき、クワトロのステアリングは右に左にと慌ただしく動き続けることになる。

30年前のモンテカルロ
そう分かるのは、ここが初めて来た場所ではないからだ。フォトグラファーのマーティン・ゴダードと私は、33年前のそのときもアウディ・クワトロに乗っていた。当時、クワトロは自動車業界の革命児で、その驚異の四輪駆動はハイパフォーマンスの意味を書き換えていた。私たちは壮大な構想を胸に、左ハンドルの初期型テストカーでロンドンを出発した。第50回モンテカルロ・ラリーでハンヌ・ミッコラとミシェル・ムートンを追いかけ、ワークス仕様クワトロの能力を間近に捉えようという計画を立てたのだ。

ふたを開けてみると、1982年1月のモンテは史上最も暖かく、ドライだった。アイスやスノー、少なくともウェットの路面でクワトロがトラクションを見せつける場面を期待していたのだが、その機会は訪れず、優勝したのは軽量で機敏なオペル・アスコナ400に乗ったワルター・ロールだった。それでも、ミッコラはラリーを大いに盛り上げた。12マイルのステージでパンクして3分ロスし、8位に後退しながらも、最終的に2位まで追い上げたのだ。

私たちはというと、3日3晩にわたって高速ドライブを堪能した。スペシャルステージを次々と梯子しては、世界最高のラリードライバーが轟音を上げて通過するのを山腹や小さな村々で見守った。移動中にクワトロのトラクションを期待通りの形で実感する機会はなかったが、四輪駆動車でなければ辿り着けないような人里離れた場所に駐車する際には大いに役立った。

クワトロとの再会
今回、私たちはアヴィニョンから北西に進み、システロンとギャップ周辺の、オートザルプ県とアルプ=ド=オート=プロヴァンス県にまたがる、モンテおなじみのエリアに向かうことにした。

私はクワトロとの再会を楽しみにしていた。1980年にジュネーヴ・ショーで発表されたときにも、その後のロードテストでも何度も乗った。モンテを追いかけて夢のような1週間を過ごしたあと、自分でもクワトロ20vを購入してファミリーカーとして使った。速く、有能で快適、信頼性と実用性も兼ね備えたクワトロは、わが家で大いに愛された。

久しぶりにクワトロを見て、車高が低いのに驚いた。ずいぶん小さく、華奢にすら見える。当時は、他のラリーカーに比べてモンスターのように巨大に見えたものだ。

1984年に誕生したエヴォリューションモデルのスポーツ・クワトロは、運動性能を高めるため、ホイールベースを320mm、全長を240mmも削られた。

クワトロのボディサイドはいま見ても独特だ。このブリスターフェンダーを考案したのはデザイナーのマーティン・スミスで、"テクニカルな"外観にするようにという、指示に応えるためだったと話している。

車内に目を向けると、シートやドアトリムを飾る太い縞模様のベロア生地に、これが生まれた時代を感じる。当時はこれが"トレンディー"だった。小ぶりでリムが細いステアリングがペダルと一直線の位置にあるのがありがたい。ペダルはヒール・アンド・トウがしやすい完璧な配置だ。初期型クワトロのドライブにはヒール・アンド・トウが欠かせない。ギアレシオが分散しているので、シフトダウンの際にはスロットルペダルを踏み込んで回転を合わせる必要がある。3速から2速へ、2速から1速へと落としながら、同時にブレーキングしなければならない。アルプス山麓に行けば四六時中やることになる。

ステアリングは握るとしっくりと手になじむ。クラッチは重すぎることもなく、踏み込み量が短くて効率的だ。レザー巻のステアリング同様、シフトノブにも使い込まれて艶が出ている。ただ、クワトロのシフトは動きが少々ぎこちない。機能的には問題ないし、ミスシフトの心配はないが、気持ちよさとは無縁だ。5気筒エンジンが持つ"フライホイール効果"を念頭にゆっくり動かす必要がある。1、2と連続で動かさず、間に一拍置く感じだ。

走り出すと、ステアリングがクワトロの長所だったことをすぐに思い出した。重さがちょうどよく、ダイレクト感があり、フィールも必要充分だ。もう少し走ると、クワトロに備わるさらに大きな美点を再認識した。乗り心地が実に素直で快適なのである。充分に取られたストロークや、スプリングとダンパーのセッティングによって、どんなに苛酷な状況がタイヤに襲いかかろうとも確実に対処してくれる。今回の目的地で大いに役立つだろう。

33年の時を経て、再びクワトロのステアリングを握ったニコルズ。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mel Nichols Photography:Martyn Goddard

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