アウディ・クワトロでモンテカルロを走る|30年前に革命児と評価された四駆パフォーマンスを体感

1982年アウディ・クワトロ(Photography:Martyn Goddard)



ただ、この試乗したクワトロのサスペンションはカタカタ小さな音がする。おそらく過去34年間、7万4000マイルを走行する間ずっとそうだったのだろう。新車で購入したのは、スコットランドに住むジャッキー・スチュワートの家族だった。のちに同じディーラーに売却され、以来、ずっとそこにあったが、15年前にアウディUKがクラシック部門の保有車として買い取った。一方、205/60サイズのグッドイヤー・イーグルNCTのタイヤからロードノイズが聞こえてこないのには感心する。超ロープロファイルタイヤを履いた現代のハイパフォーマンスカーには、もっと騒々しいものも多い。

ヴェゾン=ラ=ロマンを抜けて開けた道に出るまでには渋滞もあった。オーバースクエアの2144cc5気筒エンジンは、燃料噴射とターボチャージャーの組み合わせで、高いギアでのんびり走るのもお手のものだった。ただ、楽にドライビングできるだけのトルクはあるものの、一気に加速したいときにパワーが溢れ出す感じはしない。

最大トルクの29.0kgmは3500rpmで、197bhpの最高出力は5500rpmで発生するから、この回転数が特に高いせいではない。過給のオン・オフによる差が大きいのである。この特性は初期のターボエンジンには付きものだ。低めのギアを選ぶか、回転が3000rpmに達するのをじっと待つしかない。そこまで来ればブーストが掛かり、車が一気に前に押し出される。

1290kgの車重に197bhpのパワーを得て、0-60mph加速は7秒で、これはポルシェ928やフェラーリ308GTBと同等の実力だ。217km/hの最高速度は同時代のポルシェ911にも大きく引けを取らない。

30年ぶりのアルプス・アタック
オートザルプ県まで続く谷間に出ると、道が開けてクワトロがのびのびと走り始めた。まさに得意とするところで、30年前に称賛と尊敬を集めた本領を発揮する。見通しのよい緩やかなコーナーが続き、3000〜4000rpmのおいしいゾーンを維持できるようになった。こうなるとクワトロはわずかなロールでコーナーを飛ぶように駆け抜ける。時に現れるバンプはサスペンションが完璧に吸収し、余力がたっぷりあるので、遅い車やトラックを一気に追い抜くことも可能だ。

80年代も今も、クワトロはこうした条件下で卓越した力を見せる。四輪駆動によってラリーカーとしてのポテンシャルを得た(最初は300bhpだったが最終的には591bhpまで向上する)わけだが、標準型のクワトロもハイパフォーマンスの高級ロードカーになり得ることをアウディは見抜いていた。充分な車内空間(トランクは大きいとはいえないが)と上質なシート、静かで快適なサスペンション、トップエンドでの溢れるパワー、力強いロードホールディング能力、安定したハンドリングなど、優れたグランドツアラーの要件が揃っている。1982年に山のような機材を積んでモンテカルロまで1週間にわたる旅をしたから、私にはよく分かる。悪天候ともなれば、クワトロに匹敵する者はいなかった。

もっと厳しい環境にクワトロを追い込んでみよう。1982年やそれ以降のモンテで実際に使われたルートを走るのだ。1泊する予定のギャップに近づいたところでD994(D:県道)を離れ、レピーヌの手前でD26に入った。トゥレット峠を越えてロザンまでループ状に戻る31kmのコースだ。マーティンは1999年のモンテで、ここを走るコリン・マクレーやリチャード・バーンズを見たことがある。

クワトロの持てる力をいかんなく発揮できるまさに夢のような道だ。クワトロはパワーを余すところなく路面に伝え、大きな回転力を生み出す。それを生かすには、アンダーステアが大きくなりすぎないよう、入り口は比較的ゆっくり入って、スロットル全開で力強く立ち上がるのがベストだ。

高速でのコーナリング中に限界に達すると、クワトロは奇妙な挙動を示す。フロントが外に押し出されるのを感じてスロットルペダルを戻したようなときだ。1982年に私はこう描写している。

「クワトロは一瞬、宙ぶらりんの状態になる。ジェットコースターで頂上に達したときのように、重さがなくなり、浮遊しているような感じだ。ほんの短い間ではあるがヒヤリとする。そうなったら再びスロットルペダルを踏む。すると滑らかな弧を描いて出口へ向かう。ことによるとオーバーステア気味になって、わずかなカウンターが必要になる場合もある。究極の段階がオーバーステアの半ドリフト状態で、これができると最高の気分だ。だが、一瞬宙づりになるあの感覚は気持ちのよいものではない」

1980年代の機能的なコクピット。現代のアウディとは趣が異なる。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mel Nichols Photography:Martyn Goddard

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