アウディ・クワトロでモンテカルロを走る|30年前に革命児と評価された四駆パフォーマンスを体感

1982年アウディ・クワトロ(Photography:Martyn Goddard)



4×4を粋に仕立てた立役者
アルプスからの帰り道に、クワトロのデザイナーであるマーティン・スミスを訪ねた。ルベロンにある家に到着し、私たちがクワトロを駐めると、「いい車だ」と出迎えたマーティンがいう。私は「いったい誰がデザインしたんでしょうね」と応えた。

英国シェフィールド出身のマーティンは、欧州とアジア太平洋地域を取り仕切るフォードのデザインチーフの職から引退したばかりだ。キャリアをポルシェでスタートし、その後アウディに移って、1978年に29歳の若さでクワトロをデザインした。

「駆け出しのデザイナーが幸運にもすぐに昇進して、アウディで最年少の部長になった」とマーティンはいうが、能力があったからこそだ。クワトロのデザインについてマーティンはこう語った。

「私がフェルディナント・ピエヒ(当時はアウディの開発部門トップだった)から受けた指示は、"テクニカルな外観にすること"だった。ベースとなった80クーペとの差別化を図る必要から、ふくらんだフェンダーにして四輪駆動を強調しようと思いついたんだよ。クワトロを見れば、どうしてもフェンダーに目が行ったものだ。だがね、予算の関係で、新しいものをデザインするのではなく、80のフェンダーをモディファイすることしかできなかった。本当は車の上面もフラットではなくカーブしたものにしたかったんだが。スポーツ・クワトロのようにね。そこを出発点にデザインを組み立てて、スポイラーやスカート、フロントバンパーとホイールを変えた。フェンダーがふくらんだ分、ホイールアーチ内の収まりがよくなった。リアスポイラーは模型を作って、ヴォルフスブルクの風洞で効果を検証した」


「車名として提案されたのは"クワドロ(Quaddro)"だった。しかし、プロジェクトリーダーのワルター・トレーザーが"クワトロ(Quattro)"でなければならんと断言したんだ。そのほうがアグレッシブでテクニカルな響きだとね。ロゴについては、特徴的な角張った文字で"quattro"と入れるアイデアを選んだ。インゴルシュタットにあるデザイン会社のクリスティーネ・グルデンの提案だ。ラリーカーのカラーリングは、オレンジ、ライトグレー、ダークブラウンを大きなブロック状に並べることにした。あの頃は誰もがストライプだったが」

「クワトロへの反応には、自分がプロジェクトチームの一員であることを誇りに思ったものだ。他の会社の技術革新に匹敵するインパクトだった。突然、アウディは脚光を浴びることになった。クワトロは選ばれた者だけの車だった。アウディ社内でもクワトロを持っていたのはピエヒだけだ。私なんぞ哀れなデザイナーでは、社用車として借りることもできなかったよ」

「ピエヒには先見の明があり、クワトロのポテンシャルを見抜くと、必要なパーツをVWグループ内から集めてまとめ上げた。私はアウディのような会社でピエヒのような人間と働けることに燃え上がっていたよ。ピエヒは次々に新しいことを思いついた。先進的なエアロダイナミクス、四輪駆動、ガルバナイズ処理、品質向上などだ。彼こそ、アウディのブランドイメージを高めた立役者だ」

現在マーティンはプロヴァンスとロンドンを行き来してデザインコンサルタントとして働く傍ら、良質なクラシックカーのコレクションでラリーにも定期的に参加している。彼のコレクションは、ワークスラリー仕様の1961年オースティン・ヒーレー3000Mk2や、コンクールコンディションの1956年ジャガーXK140ロードスター。1935年MGNAスペシャルは、1400ccにアップした6気筒エンジンにスーパーチャージャーを備え、スペシャリストのピーター・グレゴリーの手でK3マグネット仕様に仕立てられた逸品だ。また二輪では、ノートン製フェザーベッドフレームにトライアンフのプレユニット型650ccエンジンを組み合わせた正統派"カフェレーサー"の1966年トリトンも所有する。

「フェラーリ430スクーデリアを売り払って、1960年のシトロエン2CVを買ったよ。これぞダウンサイジングだ。畝のあるボンネットにスーサイドドア。クロワッサンを買いにいくのにぴったりだよ」


1982年アウディ・クワトロ
エンジン:2141cc、5気筒、SOHC、
ボッシュ製Kジェトロニック燃料噴射装置、KKK製K26ターボチャージャー
最高出力:197bhp/5500rpm 最大トルク:29.0kgm/3500rpm
トランスミッション:前進5段MT、四輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン、油圧式パワーアシスト付き

サスペンション(前/後):マクファーソンストラット、ロワーウィッシュボーン、
コイルスプリング、
テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:4輪ディスク(前輪:ベンチレーテッド式) 車重:1290kg
最高速度:217km/h 0-100km/h:7.3秒

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mel Nichols Photography:Martyn Goddard

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事