レストアの「職人技」を写真解説|廃車同然のアストンマーティンが美しくよみがえるまで

1959年アストンマーティンDB4(Photography:John Colley)

ヒストリックカーの世界には"フルレストア"という言葉が氾濫している。だが、その本当の様子が理解されているとは思えない。アストンマーティンDB4のレストアを通してプロフェッショナルの仕事を解き明かすことにしよう。

「銀行に預けておくよりいいですよ」いかがわしい業者が迷っている客を説き伏せるときに使う常套句だ。ところが、最近はほとんどのクラシックカーにこの言葉が本当に当てはまるようになった。昨今の経済情勢のおかげで、私たちの趣味が好景気に沸いているのは間違いないが、いうまでもなく価格上昇は諸刃の剣でもある。不動産市場と同様、すでに階段をある程度上がっていた人にとっては好都合だが、最初の段に足を掛けたばかりの者にとっては迷惑なだけだ。

写真はDB4シリーズ1である。こうしたクラシックカーは多くの人にとって手の届かない高嶺の花になってしまった。だが、価格上昇によって、スペシャリストやパーツサプライヤーの経営が順調なのだと思えば、少しは心の安らぎになる。その恩恵がいずれ私たちにも及ぶからだ。また、レストアされる車が増え、その品質がかつてないほど高まっているということでもある。

カロッツェリア・トゥーリングがデザインしたアストンマーティンDB4、DB5、DB6は、誰からも愛されているクラシックカーの代表だ。イギリスにあるアストンマーティン・スペシャリストの大手5社に取材したところ、レストア中のDBシリーズはこの5社だけで合計80台余りに上った。まず、アストンマーティンのワークス・ヘリテージ部門で18台。内訳はDB4とDB6が各5台、DB5が8台で、各モデルの人気を忠実に反映した数字だ。他の4社でも同様の台数をレストア中だった。アストン・ワークショップ(ダーラム州)、RSウィリアムズ(サリー州)、デズモンド・J・スメイル(バッキンガムシャー州)、そして、今回紹介するDB4のレストアを行ったアストン・エンジニアリング(ダービー)である。この人気が衰える気配はまったくない。どこも注文はいっぱいで、最高で1年待ちの状態だという。

レストアにかかる費用は数十万ポンドに上るが、ひとたび完成すれば、その価値は投資額をはるかに上回る。賢人の言葉を借りれば、世界中の金持ちは増える一方だが、本当に上質なクラシックカーの数は限られている。だから需要が価格を押し上げるというわけだ。

錆びたDB4は最高のベースだった
今回取り上げるDB4シリーズ1は、それ自体には特筆すべきところのない車である。1959年5月17日に納車され、オリジナルの色はブルーだった。数十年間をオーストラリアで過ごしたあと、1981年頃にイギリスに戻り、ある時期に赤に塗り直された。残念ながら、その後、オーストラリアの乾燥した気候で過ごしたアドバンテージは帳消しになってしまった。長い間、ダービシャーの庭先で見向きもされずに放置されていたのである。

では、なぜこのDB4を取り上げたのか。それは、レストアの過程を美しい写真で紹介できるまたとない機会だからだ。アストン・エンジニアリングの技術者で元テレビカメラマンのポール・スミスが、ワークショップでの作業工程を写真に収めた。それだけでなく、作業の節目ごとにボックストレーラーに積み込んで地元の自動車写真家ジョン・コリーのスタジオに運び、"お色直し"中の各段階を撮影した。こうして、DB4が廃車同然の状態から、コンクール優勝候補レベルにまで変身する様を克明に捉えた非常に興味深い記録ができあがったのである。



編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon Studio Photography:John Colley Workshop Photography:Paul Smith 取材協力:DB4オーナー、スペシャリスト各社、アストン・エンジニアリング(www.astonengineerin

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