レストアの「職人技」を写真解説|廃車同然のアストンマーティンが美しくよみがえるまで

1959年アストンマーティンDB4(Photography:John Colley)



オリジナリティー
クラシック・アストンが最新技術を駆使して、"新車当時より高い品質で"リビルドされている一方で、オーナーのほうはオリジナル状態の仕上がりを望む傾向がますます強まっている。少なくとも、アストン・エンジニアリングではそれを感じているという。「販売中の車が2台ほどありますが、その価値についてこちらが説明する前に、"マッチングナンバー"かどうか、オリジナルの色かどうかを真っ先に聞かれます」と営業マネージャーのロス・アラトンは話す。

この傾向は、アストンマーティン・ワークスではいっそう顕著なようだ。ナイジェル・ウッドワードはこう説明する。「ここ1年半の間に、オリジナルであるかどうかがすべてになりました。3年前なら、大事なのは4.2リッターのエンジンとか、エアコンやパワーステアリングの有無などでした。今、私どもに車が持ち込まれるのは、オリジナル状態に戻すためです。また、メーカーでレストアするほうが長期的に見て価値が上がると信じられているようです。事実、DB5のサルーンとコンバーチブルが新記録の高値で売れたばかりですから」

しかし、より一般的に見ると、パフォーマンスのアップグレードや快適な装備の充実を求める人は依然として多いようだ。アストン・ワークショップ(アストンマーティン・ワークスとは別の会社)では、依頼の大半がカスタムメイドの製作だという。重要なのは変更点が目立たないことで、元に戻せれば理想的だ。アストン・ワークショップでは、DB5やDB6に搭載されているノイズの大きいZF製5速ギアボックスを、トヨタやBMWの6速ユニットにコンバートすることも行っているが、それもオリジナルに戻すことができる。

このDB4も、最新式レストア・アストンの典型といえる。1959年に3.7リッターだったエンジンは4.7リッターに拡大。スプリングやダンパーもアップグレードしてハンドリングを改善した。オーバードライブを装備し、リアアクスル・レシオを3.31:1に高めたことで、より安定した高速走行が可能だ。しかし、4速のデビッド・ブラウン社製ギアボックスはそのままで、外観も標準仕様に見える。ホイールはボラーニ製のクロームワイヤースポークだ。塗装されたワイヤーホイールのほうが一般的だったが、ボラーニもオプションにあったからだ。1セットで約8000ポンドもするが、現代のオーナーには高い人気を誇る。

空調システムも隠して装備する。「奥さんや恋人はエアコンのない車でのドライブを嫌がりますよと私が言うと、そこで初めて付けてくれというお客様が多いですね」とウィリアムズは言う。また、ダッシュボードに組み込まれたベッカー社のメキシコは、一見したところは当時のラジオだが、最新機能を備えたオーディオ兼ナビゲーション・システムだ。非常に人気があるが、一定数の限定生産なので、長く待たなければならない場合もある。

エンジンの改造には賛否両論あるが、直列6気筒エンジンをボアアップによって4.2リッターに拡大することは、長年広く行われてきた。何しろ、4.2リッター用のピストンとピストンリングの合計額のほうが、3.7リッターのピストンリングより安いからだ。クランクシャフトとコンロッドを替えてストロークを延長し、4.2リッターから4.7リッターにすることも可能で、このDB4も拡大してある。

今は他の選択肢もある。エンジンを3.8リッターか4.0リッターにするのだ。4.0リッターはDB5のファクトリースペックだった。外見はまったく同じなのに、なぜわざわざ小さな容量を選ぶのかと不思議に思われるかもしれないが、これも最近のオリジナリティーを重視する傾向ゆえだとウィリアムズは説明している。また、3.8リッターならエンジンブロックの機械加工が少なくて済み、オリジナルのシリンダーライナーをそのまま生かすこともできる。

リビルドする際に電子制御式点火システムを組み込むことも一般的だ。アルドン社のイグナイターは信頼性が高く、ディストリビューターキャップの中に完全に収まるので、"オリジナル"な外見も維持できる。

比較的安い費用で、DBシリーズのドライバビリティーを何よりも大きく改善できるのが、オランダのEZ製電動パワーステアリングの装着だ。EZ社のシステムは取り付けが容易で、速度変化に敏感に反応し、ECUで個々の好みに応じた電子制御も可能である。このほかにも、イギリスのGTCエンジニアリング製EPAC2システムも存在し、デズモンド・J・スメイルが使っている。

「以前ならDB4のハンドリングは改善する必要すらありませんでした。ステアリングがあまりに重いので、ハンドリングが問題になる前にコーナーが尽きてしまったものです」とウィリアムズはジョークを飛ばした。もちろん誇張だが、パワーアシストによって大きく改善されるのは事実だ。

アシストの有無に関係なく、DBシリーズのターンインをシャープにし、よりニュートラルステアに近づけることは、サスペンションのアップグレードによって実現できる。公道で使用するなら、スプリングレートを25%高め、フロントのスタビライザーを50%太くするのが一般的だ。DB4のオリジナル仕様は、フロントがアームストロング製テレスコピック・ダンパーで、リアがレバーアーム式ダンパーだった。現在フロントはコニ製の可変ダンパーを使うのが一般的だが、可変レバーアームも指定できる。

この可変レバーアーム・ダンパーは、レース用に開発されたパーツから誕生したものだ。一時、DBシリーズでのレース参戦は人気があった。現在も競技を続けている車は多いものの、価格高騰によって、歴戦の強者がロードカーに戻してリビルドされることも増えてきた。回り回って元に戻ったわけだ。

DB4のホイールは16インチだったが、DB5から15インチに変わった。現在、DB4にはどちらも装着できるが、15インチにすれば、素晴らしいエイボンZZRの205セクションを履くことができる。この16インチ用はないので、その場合はエイボン・ターボスチールの185セクションが推奨されている。

エンジンはリビルドの際に4.7リッターに拡大した。ダイナモメーターで慣らし運転をしてから、塗装の済んだボディシェルに慎重に搭載された。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon Studio Photography:John Colley Workshop Photography:Paul Smith 取材協力:DB4オーナー、スペシャリスト各社、アストン・エンジニアリング(www.astonengineerin

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