レストアの「職人技」を写真解説|廃車同然のアストンマーティンが美しくよみがえるまで

1959年アストンマーティンDB4(Photography:John Colley)



レストアされた車を評価する際にまず目が行くのは塗装と内装の品質だろう。したがって優秀なレストアラーは完璧な仕上げを目指してそこに大変な努力を払う。現在は環境保護の観点から水性ペイントが一般的になっているが、特有の問題点もある。以前の合成樹脂塗料と色合いが違って見える場合があり、色によっては調整する必要があるとウィリアムズは話す。人気の"シルバーバーチ"もそうした色のひとつだ。いうまでもなく、下塗り、ベースコート、ラッカーと何層にも塗り重ね、最後はもちろん各段階でも、時間をかけて平滑に磨き上げる。小さな気泡ができないよう、専用の塗装・乾燥ブースも使用されている。以上はごく標準的なことだ。

内装に関しても悩みは尽きない。現在、特に難しくなっているのが、必要な技術を持つ職人の確保だ。一般的な方式ではなく、当時のアストンマーティンと同じ方式で作業を進められる職人が必要なのである。

また、使用する革の種類も悩みどころだ。当時使われた"ヴォーモル"は1980年代以降しばらく入手できなくなり、代わりに"オートラックス"や"オートカーフ"と呼ばれる革が使われるようになった。オートラックスはヴォーモルより表面がスムーズで、オートカーフはヴォーモルより厚手だ。現在は再び生産されているヴォーモルだが、「革の模様が目立つため、色によっては汚れて見える場合がある」とウィリアムズは話す。このDB4ではオートラックスを使用している。

これだけの作業をすれば、それなりの費用がかかる
読者が最も関心のある話題を後回しにしてきた。こうしたプロフェッショナルなフルレストアにかかる費用だ。アストン・エンジニアリングは率直に教えてくれた。オリジナル仕様にする標準的なレストアで18万〜20万ポンド、オプションやアップグレードがある場合は22万〜25万ポンドというのが典型的な金額だという。もちろん、ここに20%の付加価値税とドナーカーの購入費用が加わる。

聞くだけで強い酒を煽りたい気分になるだろうか。驚くかもしれないが、こうした見積額は、このレベルのレストアでは決して高いほうではない。目を転じて、最高級アストンが最近オークションで付けた落札額を見てみよう。DB4シリーズ2が51万ポンド(2015年8月、RMサザビーズ)、アストン・ワークショップがレストアしたDB5が62万8700ポンド(2015年5月、ボナムス)、DB6ヴァンテージが45万3000ポンド(2015年1月、RMオークション)である。これは多くの中の3例に過ぎない。さらにコンバーチブルなら、どのモデルでもこの2倍、3倍の額になり得る。

したがって、アストンマーティンのレストアに高額を注ぎ込むのも理にかなっているといえるだろう。今のところ人気が高いのはDB4、DB5、DB6だが、V8の中にも同等の高値で取り引きされる車が出てきており、全体の価格も上がりつつある。バイヤーは自分が若い頃に見た車を欲しがるという傾向を考えれば、この流れは確実に続くと見ていい。

この状況を喜ぶ人ばかりではないだろう。一般人がDBアストンを日常的に乗り回せたのは遠い過去のことになってしまった。しかし、皮肉なことに、非常によいDBシリーズは今でも日常的な足として活躍できるのである。

このDB4はオーナーの希望でめずらしいメタリックグレーで仕上げられた。内装のレザーは伝統的な"ヴォーモル"ではなく、"オートラックス"の赤を使用。

1959年アストンマーティンDB4

エンジン:4.7リッター(オリジナルは3.7リッター)、直列6気筒、
]DOHC、SU製HD8キャブレター×2基

最高出力:293bhp/5000rpm 最大トルク:45.6kgm/4000rpm
変速機:デビッド・ブラウン製前進4段MT(オーバードライブ付き)+後退、後輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、
テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):リジッドアクスル、コイルスプリング、トレーリングリンク、
ワッツリンク、レバーアーム・ダンパー
ブレーキ:4輪ディスク 車重:約1300kg
性能・最高速度:240km/h以上、0-100km/h:推定約8秒

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon Studio Photography:John Colley Workshop Photography:Paul Smith 取材協力:DB4オーナー、スペシャリスト各社、アストン・エンジニアリング(www.astonengineerin

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事